改正労働基準法「年次有給休暇」の「取得単位」に関する対応について
2010年3月3日
東京自治労連中央執行委員会
2010年4月1日施行で労働基準法が一部改正され、年次有給休暇の取得単位について5日を限度に時間単位で取れることとされました。この改正を受けて、一部自治体等において年次有給休暇の取得単位について、従来の限度のない時間取得に5日の限度を設ける提案が行われています。都庁においては昨年の確定闘争で決着し、東京都の関連法人についても同様の動きが出されています。今後各単組においても同様の提案がされることも想定し、以下の通り取り組みの方向を提起します。
1.「労働基準法改正」の趣旨を逸脱
今回の労働基準法改正の趣旨は、都道府県労働局長宛の厚生労働省労働基準局長名「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」(平成21年5月29日付、以下、「労働基準局長通知」という)において、「この年次有給休暇については、取得率が五割を下回る水準で推移しており、その取得が課題となっている一方、現行の日単位による取得のほかに、時間単位による取得の希望もみられるところである。このためまとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨をふまえつつ、仕事と生活の調和をはかる観点から、年次有給休暇を有効に活用できるようにすることを目的」と、年次有給休暇の取得促進のためとしています。したがって取得促進につながらない措置は、法改正の趣旨に反することとなります。
2.労働基準法改正に伴う総務省の通知について
総務省は「労働基準法の一部を改正する法律について」(平成20年12月12日付)(以下、「総務省『労働基準法一部改正』通知」という)を通知しました。ここでは「当該規定については、地方公務員法第58条第4項が改正され、(中略)使用者が特に必要があると認められるときは、5日以内に限ることなく時間単位の年次有給休暇を付与することができることとされました。」としており、地方公務員法適用の自治体労働者について、時間単位取得を5日に限らなくてもよいことが明確にされています。
同時に「ただし、現業の地方公務員については、改正後の労働基準法第39条第4項がそのまま適用されることとなるため、時間単位の年次有給休暇は5日以内に限り付与することができることとなりますので、ご留意願います。」と現業の地方公務員について年次有給休暇の時間単位取得を5日以内としています。
3.当局提案の内容
東京都においては、これまで年次有給休暇を半日単位での取得しか認められなかった公営企業局などについては、あらたに時間単位取得を5日まで認めることとした一方、これまで制限なく年次有給休暇の時間単位取得を行っていた知事部局・教育委員会について、教育職員を除いて5日に制限することとしました。当局提案理由は次のとおりです。
第一に労働基準法が改正されたもとで労働基準法を下回ることはできないとしていることです。これについては労働基準局が「労働基準局長通知」(平成21年5月29日付)において、「まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨にかんがみ、法第39条第4項第2号において、五日以内とされており、労使協定では、この範囲内で定める必要があること。」としていることを根拠としています。
第二に「総務省『労働基準法一部改正』通知」の「ただし」書き以降を理由に、現業職員の時間単位取得を5日限度として、非現業についても「全庁的統一」を名目に導入するとしています。
4.東京都当局の主張の矛盾
東京都の主張には大きな矛盾があります。今次改正に至るまでは、労働基準法に年次有給休暇の時間単位取得については明記されていません。ところが現在まで東京都は人事院規則15−14の第20条を参考に定めた「職員の勤務時間・休日・休暇等に関する条例施行規則」第11条第1項と、「平等取扱いの原則」を適用して労働基準法適用の現業職員も含めて年次有給休暇の時間単位取得を認めてきました。これを時間単位取得5日限度にしなければ「年次有給休暇の本来の趣旨」に反するとするならば、これまでの労働基準法のもとで東京都自らが労働基準法の「年次有給休暇の本来の趣旨」を逸脱し長年にわたって違法状態を続けてきたことになります。
5.これまでの年次有給休暇の取得単位は違法なのか?
これまで都庁や区役所、市役所の職場においては、長年にわたり時間単位での年休取得が実施されてきました。民間においても労使協定や労使慣行、就業規則上の規定を設けることによって行われているところもあります。これらは労働基準法違反と言われるべきものではありません。
このことは「半日休暇を認める就業規則上の規定や契約内容となった慣行がある場合には、使用者は請求に応じる義務がある」(高宮学園事件・東京地裁平7.6.19労判678号)とした判例をもとに、日本労働弁護団の発行している「働く人のための労働時間マニュアル」(2003年1月23日発行)にも「時間休の取得も就業規則上の規定や労使慣行があれば認められる。」と明確に記述されています。
「Q&A地方公務員の勤務時間・休日・休暇」(ぎょうせい・平成7年1月)においても、「労働者から半日又は時間単位の付与を請求されても使用者はこれに応ずる義務はない」と記述されており、このことは逆に労働者から請求されたとき使用者がこれに応じた場合でも違法ではないことを示しています。
都内複数の労働基準監督署に直接電話で確認をした結果、「労使慣行によって行われていた時間単位取得はこれまでも違法ではなく、改正労働基準法実施にあたっても引き続き違法ではなく有効である」との回答も得ており、総務省「労働基準法一部改正」通知の「5日以内に限ることなく時間単位の年次有給休暇を付与することができる」ことからも明白です。
さらに外郭団体などの公務好況感軽労働社についても、これまでの時間単位取得については違法ではなく、労働条件の変更にあたっては労使合意があくまでも前提にあることはいうまでもないことです。
6.当局との闘い方のポイント
(1)当局交渉における論点
@「改正労働基準法」の改正の趣旨は「仕事と生活の調和をはかる観点から、年次有給休暇を有効に活用できるようにすることを目的」としたものであり、年休取得の促進が改正の中心点であること。
Aこれまでの条例・規則、労使慣行による「年次有給休暇の時間単位取得」が改正労働基準法施行によって法に抵触するものではないこと、これまでの慣行が引き続き有効であること。
(2)労使協議事項であることを明確にして実態を明らかにさせる
労使協議事項であることを明確にして拙速な決定をしないように求め、当局に組合員の年休時間単位取得状況を明らかにさせます。公務公共関係労働者の職場では労使合意が前提であることを明確にします。
(3)職場からの声を当局に集中しよう
別紙Q&Aも活用して職場世論を結集して取り組みましょう。
以上
【参考資料】時間単位の有給休暇の上限規制に関する論点のポイント
2010年3月3日
東京自治労連中央執行委員会
(1)Q: | 改正労基法に基づくと、現業職地方公務員の時間休が5日を超えると違法なのですか。 |
A: | そんなことはありません。実際、労基法が改正される前から、現業職に対しても非現業と同様に時間休暇で取得してもよい年次有給休暇が付与されていたわけで、当局の論法によれば、今までも違法だったということになります。 |
(2)Q: | 東京都当局は、「非現業においても労基法の年次有給休暇に関する規定があり、使用者が特に必要があると認められるときに限り、5日以内に限ることなく付与できる」と述べ、5日に限定することの正当性を強調していますが。 |
A: | 総務省が出した「労働基準法の一部を改正する法律について」(2008年12月12日付)のことを指していると思われます。この通知は、使用者が認めれば今までどおりの時間休取得が問題ではないことを意味しており、「改悪しろ」と述べているものではありません。問題なのは、前のQAでも述べたように、使用者である東京都が、労基法改正の趣旨に反して、労働者の労働条件を切り下げようとしていることであり、使用者責任を果たしていないという点です。 |
(3)Q: | 東京都全体で改悪されたのでしょうか。 |
A: | 違います。まず、学校の教職員は除外されています。また、水道、下水道、交通局などの地方公営企業職員に対しては、これまで時間休という制度はありませんでしたので、今回の提案は「労働条件の改善」という側面を持っています。 このように、時間休については異なった到達点を持っているのに、これを一緒にして都労連として妥結することに当局が固執した点に大きな問題があるのです。 |
(4)Q: | 東京都以外の自治体でも提案されているのですか。 |
A: | 23区では千代田区で提案されています。全国的には名古屋市、北九州市で提案があり、妥結しています。しかし、非常に数は少なく、一部の自治体に限られているといえます。また、浜松市では提案されたものの、労働組合が労基法改正の趣旨に反しているとの指摘を行って継続交渉のままとなっています。 |