東京都入札契約制度改革研究会 第一次提言に対する見解と意見
東京土建一般労働組合
東京自治体労働組合総連合
はじめに
東京都は昨年9月「入札契約制度改革研究会・第一次提言」を発表しました。都発注工事において低価格受注、入札不調やくじ引き落札、そしてそれが品質の悪化などの弊害をもたらすことに対して抜本的な改革が求められるとして、有識者7人(会長・郷原信郎桐蔭横浜大法科大学院教授)による4回の研究会と業者団体へ3回のヒアリングによって検討してきたことをまとめたものです。現状認識と当面の改善策を示し、そして今年夏前に出す予定の最終提言へ向けた課題と検討の視点を整理しています。
私たちは公契約条例を各地で具体化する運動を進めていますが、東京都発注工事の入札契約制度にかんする「改革案」について分析をし、最終提言とりまとめ前に要望を述べていくことによって、それが「改革案」に一定の反映がされるならば、公共事業の民主的な発展にとっても有効であろうと考え、本「見解と意見」を示すことにしました。
(1)規模が巨大で問題多発の都発注工事、その「改革」がもたらす影響は大きい
東京都発注工事に関してこの数年来、低価格競争(あるいは低価格積算)、入札不調やくじ引き入札の問題が新聞等でも取り上げられ、そしてそのことが建設現場においては、中間業者の破たんと労務費不払い、施工業者間の契約の不備・トラブル、追加変更工事等の取り扱い不明、資材高騰への対策遅れなどの問題となって現れています。その解決を求めて東京と近県の建設労組への相談が相次いで寄せられ、発注側の職場にも持ち込まれています。
こういった事例の続発をうけて、契約実務と施工体制に異常ともいえる事態が進行しているのではないかとの問題意識から、東京土建は建設政策研究所(理事長・永山利和日本大学教授)と共同で現状の調査・分析を行い、06年3月に「東京都の公共工事はどうあるべきか〜入札契約制度改革の方向」(以下「06年調査」と言う)をまとめています。
「06年調査」でも取り上げましたが東京都発注工事は1件5億円を超す工事が全体の半分以上を占めており、他県の2割程度と比べても大型の工事が多く、特に1億円以下の工事は全体の2割程度にすぎません。工事総額も圧倒的に大きく、工事規模の巨大化は受注企業の規模も大きくするものです。受注ゼネコンの資本金別でみると50億円以上がやはり半数近く占め、全国平均の2割以下から比べても極端な傾向がありました。
このことからも東京都発注公共工事の「改革」が正しく実行されるならば、他県や地方自治体への影響と波及は大きいものと考えられます。また契約関係が整備改善され、積算改定や労働条件等にも及ぶならば多くの下請け業者・労働者、そして疲弊している地域の中小ゼネコンにとって、今般の不況を乗り越えられる希望にもなります。
「一次提言」での現状認識と問題意識の設定には、全建総連東京都連合会による毎年2度の都庁交渉での意見や、地域建設業界が指摘してきた問題が一定盛り込まれています。都は提言を受けて最低制限価格を引き上げる試行を08年11月から開始しましたが、この対応は評価できるものです。これからの「最終提言」に、私たちの期待に沿う内容がどこまで盛り込まれ、東京都がどのように実行に移すかが問われてきます。しかし全体を見渡したところ不十分さも見受けられる、というのが率直なところです。最終提言とりまとめの前に私たちの見解を示し、よりよい改革にされることを要望するものです。
(2)東京都の公共工事の現状と課題
東京都の工事は先にも述べたように大型化し大企業の受注に偏る傾向が強くあります。まして「オリンピック招致」を梃子に三環状道路をはじめとした、都民生活とはかけ離れた工事が計画・実施されようとしており、大型化を助長しています。都立病院統廃合などでは都民サービスの低下は明らかです。都営住宅の新規建設と増設もストップしたままであり、大失業と低収入の到来が心配され現実にハウジングプア・野宿者急増の時代と逆行しています。さらに事業の運営方式には中小企業排除と大手企業独占に手を貸すPFI導入もすすめられており、広く地域経済や雇用に役立つはずの公共工事の役割からも外れることを危惧しています。
「06年調査」でも明らかにしましたが、工事規模別にそこに従事する労働者数を百万円当たりでみると、500万円未満では21人だが5億円以上では10人と半分以下になりました(90年代の全国の工事統計から分析)。東京都発注工事の00〜04年で5000万円以下と就労者数の推移を見ると、機械化・合理化によりどちらも減少傾向にはありますが、5000万円超の方が減少傾向は激しいものでした。
大型公共工事では重層構造が高まる一方で、地域産業の活性化や就労者の拡大、生活確保には結びつきづらいことは明らかです。
(3)東京都の公共工事に対する姿勢と体制
東京都が発注する公共工事で大型公共工事偏重の姿勢を切り替えて、地域の経済や社会に根ざした生活基盤重視の公共工事発注の拡大を行うことが重要です。
現在東京都が委託する比較的大きな公共工事の場合、ほとんどは都が大手企業に丸ごと委託することが現状となっています。あるいは分離・分割発注する公共工事についても、基本設計等はコンサルタント会社が行い、行政はその予算の積算を行うという状況です。
数十年間にわたる東京都の人員削減・民間委託拡大のもとで、あらゆる部門で民間委託を拡大し、設計等を行う技術者が激減し、現在ではノウハウを東京都の組織として維持・継承することがほとんど困難な状況となっています。さらには現場でのチェック機能を果たすべき都の事業所が次々と統廃合され、現場機能が縮小させられています。発注側の総合的能力の低下が問題であると言えます。
現状においてコンサルタント会社に基本設計・実設計等を委託したとしても、住民の立場でチェックできる技術と人員体制が都側に必要ですが、現在は更に人員削減を推進する方針となっており、求められる公共工事の品質確保に逆行するかたちとなっています。
(4)「改革」の前提としての公共工事のあり方や方向付けへの言及が求められる
この研究会はその名のとおり入札契約制度そのものに焦点を当てているようです。しかし「一次提言」では「はじめに」において「公共調達に都民は何を求めているのかを把握したうえで」「要請に応えサービス向上させるために」、調達システム全体の抜本的改革が求められていると、研究の基本姿勢と方向を明らかにしています。であるならば、「改革」の前提として公共工事の研究の在り方についても多少なりとも言及されるべきだと考えます。
世界同時不況化ではどの国でもどの自治体でも景気対策の柱には内需拡大を位置づけています。公共工事の前倒し発注も進められ始めています。雇用と地域経済循環に役立たせるならば、先に述べた現状のような大型開発に関わる大型公共工事ではなく、小規模で住民生活に密着した事業を地域業者へと大幅に発注を進めるべきであり、それを誘導するような入札制度の仕組みづくりが求められています。このような工事ならば建設業特有の重層構造も比較的薄いことも明らかです。
公共工事発注の基本理念を示し必要かつ充分な執行体制整備を求め、内需拡大と公共工事の転換、それに会わせた入札契約システム、および執行の指導と施工管理を「改革」の前提として、是非とも最終提言には盛り込まれることを期待します。
以下、「一次提言」の項目に準じて検討を加えることとします。
(5)「認識」について
はじめにから第1章において現状認識を整理されています。「はじめに」では価格偏重からの脱却、過度な低価格受注の弊害の懸念が述べられています。入札契約制度の枠組みに原因があるのではと指摘(例えば、時代に取り残された上限拘束性をあげている)、そして上辺だけでなく公共調達システム全体についても根本的な改革が求められると、強い姿勢を示し、踏み込んでいます。このことが貫かれるならば大いに期待できるし、評価するものです。しかし、(4)で指摘したように公共工事のあり方についての言及が欠落していることに加えて、もう一つ重要なことが落ちています。低価格の弊害が現れるのはまさに現場であす。川上の契約段階だけでなく、施工と支払い(川下)まで視野に入れなければなりません。施工体制と労働・賃金実態を把握して改革に臨むべきだと考えます。当然、下請業者や労働者の声を反映した提言とすべきです。元請業界団体とはヒアリングしていますが、労働組合とはまだ直接には行っていません。
「認識」の項では契約の公正性、透明性、運用の重要さを制度構築にとって不可欠としています。まったく当然のことで、同感です。そして品質確保を第一義的目的においています。さらに政策目的の実現への寄与として、経済振興、環境対策や福祉対策を挙げ、副次的目的として住民の意思に沿うもの、と位置づけています。この認識は確かに主たる目的ではないが重要なことです。もう少し明確に位置づけ、あるべき姿について具体的に踏み込むべきです。
発注者と受注者の能力について言及しています。受注者の技術力は第一ですが、ここでは地域貢献もとりあげ、そういう業者が生き残れる環境整備の必要性を述べています。地域性も強調されました。このことは大きく評価するものです。
発注者責任では受注者の経営力・技術力の審査・評価能力の向上を求めています。昨今の発注官庁の技術力低下を念頭にした指摘であろうと推察します。また、契約後の取り組みについて発注者責任をある程度明らかにしています。発注者がどこまで工事に関与するかが注目されます。役所は今まで元請けと下請け、下請けと下請け関係には「民・民契約である」として関与を避けてきた経過があります。現場トラブル対応、日常的監視・指導についてどこまで触れられるのか、注目されています。税金を使った事業に発注者の責任で、その執行が正しくなされるよう、具体的に指導することを強く要望します。
もう一つ重要なことは品質確保の裏側には労働の質の向上があります。それにふさわしい賃金・労働条件が伴わなければならないことを最終提言で盛り込むことを要望します。
(6)2章「現状と問題点」について
現状と問題点の前文において、価格競争による工事品質の低下、業者の経営悪化、地方経済の疲弊・崩壊をもたらしている、との認識については、私たちと一致しています。
次に、一般競争入札について触れています。「不良不適格業者の参入の恐れが少ない大規模工事で実施」と現状を述べていますが、大型工事の方が重層化が激しいのが実態であり、重層が激しくなればペーパーカンパニーやブローカーの介入を許す傾向にあります。下請関係に目を向けた分析が求められます。
「総合評価方式」について、工事実績が1割未満にとどまっていると指摘していますが、その理由・原因についての分析が必要です。
予定価格の事前公表の問題では、より適切な工事施工が期待できる、と肯定しています。不適切な積算を防止するために積算内訳書作成の義務付けていることを評価していますが、内訳書の信憑性および適切な審査点検指導がなされているかは疑問です。低入札審査制度の限界や問題点については添付した資料@のような実例があります。犠牲は下請業者と労働者にしわ寄せされています。東京都住宅供給公社では、いい加減な積算での参入を許したことの反省から、一定の是正、適正化が始まっています(添付資料A)。
都の積算と実勢価格の乖離の問題を挙げていますが、まさにそのとおりのことが起こっています。東京都工事のズレを問題にする元請・下請の業者はたくさんいます。積算については、価格高騰への迅速な対応、発注側の積算技術力の問題(机上計算だとの指摘や不満が聞こえています)、歩掛りの違い、与条件設定の現実との食い違い、総価契約の問題についても、もう少し踏み込むべきです。
入札監視委員会への苦情申し立て制度について、「不備がある」と指摘しています。障壁があることを記載していますが、その改善が求められます。
(7)当面の対策について
提言1〜2では、「希望者」の応募要件の明確化、厳格化が望まれます。
提言3は、ぜひともその方向で進めていただきたく、強く望みます。昨年の価格高騰問題では下請業者は特に被害を受けました。現行の単品スライドでは対応が不十分であったとの意見が中小ゼネコン関係者から出されています。また、元請には価格高騰分が支払われていても、実際に資材を調達した下請けへの支払いにその分が反映されなかったとも言われています。下請け支払いまで考慮した、発注者からの指導が求められます。
提言4 現場での契約トラブルで一番多いのは設計変更等への対応をめぐるものです。国土交通省は「法令遵守ガイドライン」を示して、一定の改善を図ろうとしていますが、以前多発しています。発注者の責任はもちろん、元請と下請の責任負担の明確化と指導を強めるべきです。
提言5 意見交換の場に建設労組、発注側労組、設計コンサル代表も加えることを望みます。
提言6 平準化は是非進めていただきたい、4〜6月はいわゆる「端境期(はざかいき)」で、新規入職者の充分な現場研修がなかなかできません。そして夏までの工事量が少ない時期に、競争が強まり賃金単価の切り下げが横行、それが回復しないままに秋の設計労務単価の調査時期を迎えてしまいます。そのことが低めのサンプル集約となって、低賃金構造の一つの要因でもあります。逆に年末から翌春の繁忙期には民間マンションの引渡し期とも重なり、人手の取り合いも発生します。労働者を集められずに倒産する下請業者もあります。長時間労働も強いられ、建設現場において違法の派遣労働が発生する温床となっています。そして技術力低下や不安全な作業が広がり、その結果変更工事・ダメ工事が多発し、負担は下請にしわ寄せされます。
提言7 監理技術者の確認要件緩和は、品質確保との関係において専任での技術者配置をする動きに逆行するのではないか、と懸念します。
提言8については後述します。
提言9 総価契約の問題では、結局、入札の際に削られるのは労務費等です。労務費の別枠支給・別枠明示などにも触れるべきです。そして東京都日野市で行っている、「設計労務単価の8割以上の労賃支払いをする業者を入札で加点・優遇する」ような仕組みを作っていくことが、労賃切り下げを規制する一つの有力な手段であります。公契約法・条例の制定を展望して、検討を進める課題です。
(8)課題と検討の視点について
総合評価方式の拡充について述べられています。評価項目に社会的価値、労働条件等を加えることを求めます。地域社会に貢献する優良な業者に受注機会の優遇措置、防災活動参加、地域貢献、公正労働と直接雇用の促進、労働者福祉の促進、女性および障害者雇用、技術技能訓練・資格取得支援の制度、環境配慮、法令遵守などに加点し、その検証方法についても具体的で実効力のあるものにすべきです。先述の日野市では現場労働者の受け取り賃金について賃金台帳などで点検し、設計労務単価の8割を超えているかどうかを調査しています。最低制限価格の引き上げはさらに進めるべきです。落札率が下がればその分だけ下請けの労賃や経費が削られる心配があります。
予定価格の事前公表については慎重な取り扱いをするとしていますが、弊害が報じられています。早急にやめるべきです。国交省や総務省もそのように指導(通達)しています。
上限拘束性の問題については、2月20日付の「建設通信新聞」で六波羅昭氏が指摘していました。時代に合わなくなった制度は見直しもして、弾力的に運用することが求められています。
(9)おわりに
さて、現下の日本経済は「戦後最悪」とも言われています(与謝野大臣発言)。内需拡大が叫ばれていますが、その中心には雇用対策が大きな位置を占めることは言うまでもありません。公共工事はその対策の筆頭に挙げられます。しかし、かつて建設産業は失業の受け皿でもありましたが、「建設業は大量失業の予備軍」だと、(社)日本土木工業協会の葉山会長(大成建設社長)が述べています。ある意味では賃金抑制・人員整理の合理化をも狙った無責任な発言ですが、業界トップがそう見通しているほど厳しい状況です。
この状況を転換するためには、@中小事業所の経営を維持し発展させる、A地域に根ざした公共工事の拡大、B2次3次以下の下請け業者労働者の価格・賃金等確保による生活保障、C分離・分割発注原則を重視した公共工事の社会的役割の発揮、等が求められます。以上をふまえて今回の「改革」検討が過酷な低価格競争から脱却して、健全な建設産業へ向かう第一歩となることを期待します。









