憲法学習会メモ
2005年2月25日  
東京自治労連憲法改悪阻止闘争本部

はじめに
憲法改悪を狙う勢力のスケジュールは、きわめて具体的で緊迫しています。早ければ2007年の国政選挙と同時に憲法改悪の国民投票を実施することを視野に入れて、開会中の通常国会に「国会法改正案」と「国民投票法案」を提出する準備が着々と進んでいます。               
どうして、憲法改正の日程がこのように具体的になってきたのでしょう。
 自民・公明の与党や野党第一党の民主党が改憲の立場に立っていること、またマスコミ等の憲法「改正」キャンペーンが浸透している側面もあります。しかし、もっとも大きな理由はアメリカからの圧力があるからです。日本との連合軍により世界中のどこでも戦争ができるようにしたいという今日の戦略は,日本の憲法を変えない限り不可能であることが背景にあるのです。
 1999年の「ハーグ平和アピール会議」や2000年の国連ミレニアム・フォーラムでの、日本の憲法9条に述べられている戦争放棄の原則を自国の憲法に採用しようという確認に見られるように、世界中から高い評価を得ている日本の憲法ですが、残念ながらその内容について十分に理解しているという国民はまだまだ少ないと言わざるを得ません。そこで、東京自治労連の春闘方針は、春闘期に徹底した学習を行うことを提起しました。
 憲法改悪を許すのか、それとも改憲のたくらみを打ち破るのか、その行方は国民世論をどちらが結集するかにかかっています。その意味で労働組合に何よりも求められているのは、職場に圧倒的な世論をつくるために全組合員参加の学習運動を追求することです。すべての職場で憲法の学習会を開催し、1000名の講師を養成しましょう。

1.「憲法」とは何でしょうか。
 憲法とは、権力を行使するものが守るべきものです。憲法99条は、「天皇または摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し、擁護する義務を負う」と書かれていて、この中には国民が含まれていません。そうです。国民は、権力者が憲法を守るよう監視する立場にあります。
 日本の憲法で大事なものは「三大原則」と呼ばれるもの(基本的人権、国民主権、平和主義)ですが、最も大切なことを一言で述べるとなると、それは憲法第13条の「個人の尊重」ということになります。
 例えば法律を考えてみましょう。国民の多数派が賛成した法だからといって、必ずしも正しいとは言えません。このことはナチスや戦前の日本をみれば明らかです。多数派であっても過ちを犯す危険がある、その多数派が暴走しないような手だてをあらかじめ講じておく必要がある、多数決で奪ってはいけない価値を明文化したものが憲法なのです。
 国家権力を制限して国民の自由や権利を保障するものが憲法です。この関係は国家と国民の間だけではありません。経済力や腕力などにおいて強弱の関係がある場合、例えば企業と労働者、親と子どもなど、あらゆる場面において弱者を守るために憲法は重要な役割を果たすのです。

2.自治体労働者と憲法
 憲法の中で、自治体に関係のある条文でよく知られているのは第15条です。「公務員の選定罷免権、普通選挙の保障」等について記されていますが、もっとも有名なのは、2項の「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。」です。ここに公務員のあり方の本質が示されています。
 第99条には、「天皇及び摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員はこの憲法を尊重し、擁護する義務を負う」とあります。私たちが自治体に採用されたときに宣誓書にサインするのは、このような意味があったのです。東京都知事の石原慎太郎氏が「命がけで憲法を破る」と述べていますが、自治体職員のトップがこんな暴言を吐くことがどんなにひどいことかわかっていただけるのではないでしょうか。
 92条から95条にかけては、「地方自治」について触れられています。「この「地方自治」という考え方は、旧憲法(大日本帝国憲法)には全くなかったものでです。戦前は、地方は国の出先機関でしたが、今の憲法では、国民が主権者として地方政治に参加できるようになったのです。
さらに医療・公衆衛生・生活保護・国民健康保険行政などに携わる多くの自治体労働者が憲法第25条2項憲法及び憲法に基づいた法律に依拠して仕事をしているものがたくさんあり、その意味で自治体労働者と憲法とは切り離せないものなのです。

3.なんのための憲法「改正」か
 憲法改正の最大の理由は、アメリカの注文に基づく「戦争をする国」にするための9条改悪にあります。「国際貢献」を口実にして、「集団的自衛権」を明記し、アメリカが起こす戦争に日本が参加して武力行使できるようにしようとするものです.それは、政府や財界、自民党の最重要課題であると言っても過言ではないでしょう。
 同時に、今の憲法が持っている原理を大きく転換することを目指しているのです。それは先に述べたように、「国家権力を制限するための憲法」から「国民を縛る憲法」へと、そのあり方を変質させようとするものです。
 目指すべき国家像は、「品格ある国家」であり、「愛国心が芽生える国家」です。守るべきは、「歴史と伝統、文化に根ざした我が国固有の価値」であると、戦争できる国の戦争する人づくりに憲法をフルに利用しようとしています。
 そのために、国民の義務や責任についても明確に押し付けることや第25条を空洞化して、労働ルールのいっそうの破壊や社会保障のいっそうの切り下げをも狙っています。
 そのような国家は、当然高度に管理された「治安」国家であり、「国防」国家に変質していくでしょう。現在でも、国民の正当な権利であるはずのビラ配布などに弾圧が加えられ、日の丸・君が代問題で処分が強行されていますが、こうした弾圧がいっそう強まるとともに、日本の国民全体を「治安」体制に組み込むことが狙われています。

4.改憲論を斬る

(1) 押し付け憲法
 憲法はアメリカに押し付けられたものだから、日本人の手で作り直さなければならないという議論が改憲派からよく出されます。
憲法前文の「国民主権」を例にとって、当時の様子を振り返ってみましょう。1946年2月1日に毎日新聞がスクープした日本政府の憲法試案には、「我が国は君主国で、天皇が統治権を総覧する……」とありました。
しかし、アメリカだけでなくソ連やオランダ、中国などで構成している極東委員会が「日本国憲法は国民が主権者を明記すべき」であると勧告をするのです。
第9条や前文にある「平和主義」も同様です。もちろん、戦争は絶対にいやだ、世論があったことが大きく広がっていました。憲法ができた時、圧倒的な国民がこの憲法を支持しました。こうした国内世論に押されてかけがえのない憲法が誕生したというのが正しい見方です。そして、「押し付け憲法」論を最初に口にしたのが、当時日本政府の一員として「絶対主義天皇制」に固執した勢力であること、アメリカが、憲法施行後まもなくして極東における日本の役割を変更したことに伴い、「改憲」をとなえ出し、警察予備隊、保安隊、そして自衛隊を押し付けたことも忘れてならない事実です。 

(2) 環境権、プライバシー権など
 改憲派は、現行憲法の中に環境権やプライバシーに関する条項がない、だから変える必要があるのだ、と言うこと主張する場合があります。
 しかし、これは憲法改正を狙うための口実でしかありません。憲法には「個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉」という条文があり、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする.」と書かれています。この条文を活用することにより、60年近く前の情勢では想定できなかった事態にも十分対応することが可能です。

(3) 国際貢献
 改憲派は、これからの時代は「国際貢献の時代だから、それに対応できるよう改憲すべきだ」とも言います。しかし、この主張についても、少し考えただけでおかしいということがわかるのではないでしょうか。
 自民党などが使う「国際貢献」は、アメリカの手下としてアメリカが進める戦争に荷担することを意味しています。90年代の湾岸戦争の時も、今回のイラク戦争でもそうでした。人を殺戮するための武器を持ち、ボランティアの方々に比べて遙かに高価なコスト(国民の税金)をかけてわずかな水を供給していることを考えれば、「国政貢献」という口実の化けの皮は簡単にはがれると言えます。

5.半世紀を超える「せめぎ合い」

(1) 生まれた直後からの違憲攻撃
 制定された当初は、アメリカを中心とした極東委員会の理想主義もあり、憲法の平和主義を高らかに謳うことで一致していましたが、生まれた直後から、アメリカが日本をアジアにおける「反共の砦」として位置づけようと方針変更したことなどにより、憲法を無視、あるいは蹂躙する攻撃が繰り広げられてきました。
 労働者が行おうとした2.1ゼネストをマッカーサーが禁止したことや、公務員のスト権を奪い、政治活動を制限したりすることは、第14条「法の下の平等」、第28条「労働者の団結権」等に違反しています。
レッドパージ(第19条「思想及び良心の自由」)も、女性差別(第14条「法の下の平等」)も憲法違反です、
憲法9条への攻撃も制定直後からあり、1950年の警察予備隊創設、1952年の保安隊への移行、そして1954年の自衛隊への続き、今日の日米軍事同盟のさらなる推進強化へとつながっています。

(2) 目の前の違憲状況
 私たちの回りを見ても、憲法違反の事態がたくさん起きています。平和の問題で考えれば、世界第2位の軍事費(年間約5兆円)や一連の戦争立法、先に述べたイラクへの出兵ももちろん憲法違反です。
 いのちや暮らしの問題では、労働者の状況を考えた場合、過労死自殺やメンタルヘルスが発生するような労働環境、高失業や雇用の流動化なども第27条「勤労の権利及び義務」に違反しています。
 社会保障の連続改悪は、第25条「生存権、国の社会的使命」等に違反していると言えます。

(3) だが、憲法は生きている
 しかし、国民が憲法をよりどころに闘ってきたことも事実です。
長い間差別されてきたハンセン病患者が裁判を起こし、国に謝罪させることができたのも、朝日茂さんが生活保護の抜本的改善を訴えて闘ったのも憲法があったこそです。裁判には負けましたが、その後飛躍的に生活保護行政が改善されたのは周知の事実です。
 この他にも、一連の電力思想裁判や女性昇格差別是正の闘いなど、たくさんの国民が憲法をよりどころにして闘ってきたのです。憲法は生きているのです。

6.勝利の条件はある
 以上のような話をすると、お先真っ暗で展望がないといわれるかもしれませんが、そんなことはありません。
 憲法改正を主張する国会議員が94%を占めていると言われますが、各種マスコミの調査によると、憲法9条改正賛成の国民は半数を満たしていません。9条改正の主張は「大儀」がないのです。.
 また、国会で「改憲」の発議をするには、2/3の賛成が必要ですが、それには自民党と民主党の改憲案が一本にまとまる必要があります。両党の改憲案に様々な違いが存在しており、簡単にまとまるとは考えにくいのです。
 さらに改憲には国民の過半数が賛成しないと成立しません。つまり「二重の関門」があるのです。だからといって、改憲派の策動を軽視する訳にはいきません。私たちの目標は、改憲の発議をさせないような広範な国民世論をつくることにおくべきです。
 憲法を守る闘いは、「日本の戦後史をかけ、私たちの未来をかけた闘い」です。この闘いに勝利し、憲法がいっそう輝く日本をつくろうではありません。世界的に高い評価を得ている「9条」ですが、決めるのは私たち日本の国民です。そのために、まず憲法を学び、そのすばらしさを職場や地域に広げましょう。
 そして、当面の闘いは今国会に提出される危険のある「国民投票」「教育基本法改悪」反対の闘いです。この闘いに全力をあげることを最後にお願いして私の話を終わります。