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「ビジョン」の概要 |
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はじめに |
「はじめに」では、「構造改革は負の遺産を処理することに重点が置かれ、ようやく脱却の目途がつきつつある」と述べています。
その上で、今後四半世紀(2030年まで)をにらみ、顕在化が予想される問題に対して「『避けるべきシナリオ』として警鐘を鳴らし、『目指すべき将来像』とその実現のための『三つの戦略と具体的行動』を提言し、併せてその基盤となる『2030年の経済の姿』を展望している」と記しています。
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第1部 |
直視すべき危機、避けるべきシナリオ
「時代の潮流」として、 人口の減少、高齢化の進展、地球規模のグローバル化、情報化を挙げています。2030年には日本の人口は約9000万人、約5人に一人が75歳以上の超高齢社会が到来すると予想しています。グローバル化によって、財・人・資本・情報を集めるかどうかにより、世界諸国が「勝ち組」と「負け組」に二分されるとともに、危険が短期間に世界中に及ぶというリスクが格段に高まっていると述べています。
中国、インド、ロシア、ブラジルなどが大きな存在となるとし、アジアでは中国が経済政治の両面で大きな存在感を高めていると予想しています。国際分業が進むだけでなく、地域経済の統合が大きく進展すると述べています。こうした世界規模での経済発展に伴い、地球温暖化への対応、エネルギーの安定確保のための国際的枠組みづくりが急務であるとしています。情報化の進展によって、大国が必ずしも有利となるとは限らないとも述べています。
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(1) |
経済の停滞・縮小。
以上のような情勢認識を受けて、「避けるべきシナリオ」として挙げられているのは、第一に「経済が停滞し縮小する」ことです。労働力減少による生産活動の縮小、労働力の基礎的能力の劣化、生産性停滞による一人あたり消費の貧困化、家計貯蓄率の低下、民間投資の停滞などを挙げています。
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(2) |
官が経済活動の足かせとなる
第二に述べているのは、官が経済活動の重し・足かせになる、ということです。国の財政赤字の累積は財政運営に対する信頼を失い、国債価格急落(長期金利の急上昇)が生ずると述べています。こうした財政破綻による経済危機は避けなければならない、しかし増税のみに頼る財政再建では「高負担高依存社会」となり、活力を欠いてしまう。時代に合わない制度や規則は生産性上昇の足かせとなり、画一的な平等主義は不必要な分野への人や資金の投入を招くとしています。 |
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(3) |
グローバル化への対応
三番目がグローバル化への対応です。自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)等の地域経済統合の流れに遅れを取れば、日本は成長機会を失う「元経済大国」となってしまう、経済が低迷すれば日本の相対的な比重は急速に低下し、国際影響力の低下に伴い、国際政治の動きに受動的にしか対応できない「状況主義」の国家になってしまうと危機感を表明しています。
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(4) |
社会の不安定化
最後に、「経済が停滞し縮小する中で、いったん不安定な低賃金雇用に陥ると、そこから脱出することが難しくなる。再挑戦する機会が乏しく、格差が固定化される」そのため、 「意欲の喪失や社会の分断が生じ、他人に対する無関心が増したり、社会のルールが軽視される。社会に保護されたまま努力を放棄した人々の数が増える。希望を持てない人が増え、社会が不安定化する」と述べています。
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第2部 |
2030年の目指すべき将来像と経済の姿
必要な行動を採れば、「避けるべきシナリオ」の対極にある目指すべき「新しい躍動の時代」を迎えることができると述べ、大きく三つの将来像を提示しています。 |
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(1) |
文化創造国家
一つは、「開かれた文化創造国家」です。極めて抽象的な言葉遣いですが、「熟(こな)れの技(ものづくりアニメの「すりあわせ」の技法や成熟した生活様式に見られる持続可能な技術)を「日本の強み」であると述べ、これらに基づく文化創造力を活かした「ジャパン・クール(かっこいい日本)な商品や生活様式が、個性ある担い手を生み出すとしています。「文化列島」という言葉もここで登場します。
アニメ、映画、音楽、ゲーム等の「ソフト」と放送、通信、音楽、刊行物等の「媒体」を併せて「コンテンツ」と呼び、その市場が拡大し、2030年には国内総生産(GDP)の5%に達し、食、ファッション、伝統工芸なども高い評価を得ていると述べています。
日本が「世界の知的開発拠点」となるとも述べています。知的価値の創造に成功した人や組織がフロントランナー(先頭走者)としてイノベーション(技術革新)の波を広げ、オンリーワン(たった一つ)の技術持つ企業群が存在し、代替エネルギー、ライフサイエンス技術(難病治療、再生医療、人工臓器等)、ロボット技術、ナノテクノロジー(10億分の1を扱う技術の総称)などが活用され、『プロフェッショナル』が活躍すると、ここでは横文字の連続です。
こうした競争力のある産業を中心にした海外展開の中で世界経済との統合を強め、「東アジア共同体」の形成をすすめる。そのことにより、経済的反映と政治的安定の好循環が実現すると述べています。日本は、世界中の人が訪れたい、働きたい、住んでみたいと考える国になり、年齢・性別・国籍等によって差別されることのない「壁のない国」となる、国際社会の課題解決に主導的役割を果たすことを通じて信頼感が高まり、「品格ある国家」となり世界中の「かけ橋国家」となる、世界で活躍する「世界人」が大幅に増える等と、「バラ色の日本像」を描いてみせます。 |
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(2) |
「時持ち」が楽しむ「健康寿命80歳」
超高齢化社会の時代にあっては、心身共に健康で自立している「健康寿命」80歳の人生が実現すると述べています。それとともに自由に活動できる時間(可処分時間)が1割以上増えるとし、それらの人は「時持ち」であると述べています。
「時持ち」は「楽しく働き、よく学び、よく遊ぶ」というバランスのとれた暮らしができると述べています。「働く場所や時間の弾力化」として、フレックス制や裁量労働制、労働者の「カンバン方式」も示唆されています。正社員以外の人材の多用化も自画自賛です。
「時持ち」は「生涯にわたって才能を磨くことができる機会が増える」とも述べます。具体的な例として、大学院在学者が2030年には人口1000人当たり8人と見込める(2004年は1.99人)としています。
新三種の神器(健康サービス、生涯学習サービス、子育てサービス)が発展し、お手伝いロボットが利用され、人生設計に合わせた住み替えが可能になり、居住空間も十分確保されていると述べています。前提となるその家は持ち家ではなく借家を想定しています。 |
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豊かな公・小さな官
ここでは「官」による公共サービスの提供は縮小するとし、新たに「公」という概念を提起しています。「公」とは「官」と「民」双方によって担われるものとし、個人が自発的に、自分の可能性を高めながら「公」を担う「奉私奉公」が広がると述べています。「公」を担うのは、企業、NPO等、幅広い非政府主体であるとまで述べています。 |
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目指すべき将来像に向けた3つの戦略
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生産性の向上と所得拡大の好循環をつくる好循環を自律的に機能させる鍵は市場での公正な競争であるとし、民間部門の創意工夫が生産性上昇につながるように、競争的な資源配分を実現するとしています。 |
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グローバル化を最大限に活かす |
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国を始めとした近隣諸国の経済発展をチャンスとして捉え、グローバル化に対応するために、国内制度の改革を進めるとしています。 |
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