保育闘争における当面の取り組み | |
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2006年 6月21日 東京自治労連中央執行委員会 |
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1.はじめに 子どもの最善の利益を守り、保育の市場化を許さない、保護者と保育労働者による継続した運動は、今新しい情勢をつくり出しています。 大阪高裁の大東市立上三箇保育所の民営化に対し、保護者の損害賠償を認める判決に続き、横浜地裁は、「保護者の保育所の選択権」を認め、「民営化はその権利を侵害し違法である。」とし、横浜市に損害賠償を命じました。このように、民営化そのものが子どもと保護者の権利を侵害していると司法の場で弾劾される事態も生まれています。 また、委託が強行された練馬区など各地で、民営化の矛盾が噴出しています。新聞や週刊誌でも大きく取り上げられ、「ちょっと待った保育民営化」などと報道されています。保護者と一緒になった民営化反対の取り組みや民営化後のねばり強い取り組みが、「保育を民にまかせていいのか」「公の役割を改めて問う」などの声を作り出しつつあります。この流れを大きくし、国と自治体の本来の役割を取り戻す闘いを前進させましょう。 一方、6月1日に公表された合計特殊出生率は、1.25とさらに下がり、最低を更新しました。特に東京は、0.95と全国最低となり、この間の少子化対策が効果を上げていません。「小泉構造改革」が進める雇用の流動化と働き方の見直し政策は、若年層が子どもをもつことを困難にしています。待機児童も43,434人(H17年4月現在。厚生労働省調査・旧定義)と依然として増加の傾向にあります。また、児童虐待や子どもをめぐる事件や事故も後を絶ちません。子どもたちの健やかな成長を保障する上でも、自治体や保育所の役割が重要となっています。 小泉構造改革の進行は、国民の暮らしと安全を大きく脅かしています。所得格差が、教育や福祉など生活格差を拡大しつつある一方で、国民の生活を守る役割を担っている国と地方自治体の役割が後退し、国や地方自治体の公共性が問われる事態となっています。こうした事態に対し、国民諸階層からの怒りの反撃も大きくなってきています。 東京自治労連は、自治体の公的責任・保育の実施責任を追及し、「民営化・民間委託反対」を、単組と一体となって取り組んできました。情勢を動かしていることに確信をもち、これまでの取り組みを総括し、課題を明らかにしながら、来春の東京都知事選をはじめとする市・区長選挙を視野に入れて、具体的取り組みを提起し、要求の前進を図ります。 2.民営化・民間委託反対の取り組み 1)民営化を批判する判決 大阪高裁の判決は、「保育において『保育士と児童および保護者との信頼関係が重要』であると、市が民営化を決める際に、父母の意見らの意見を聞かなかったことや引き継ぎが僅か3ヶ月であったなど拙速な民営化のプロセスを指摘し、「これでは、保育士と児童、保護者との信頼関係の構築はむずかしい」と批判しています。さらに、「民営化で保育士が全員交替し、経験の少ない保育士になることで、子どもの精神的負担、児童の安全への重大な危険が生じかねない状況や混乱が生じた」として保育の具体的な内容にまで踏み込んで実態としての子どもの損害を認めました。 横浜地裁の判決は、保護者の『保育所選択権』を認め且つ、「特定の保育所で将来保育期間中にわたって保育を受けうる利益は法的に保護された利益」としました。市立保育所の廃止処分を「市長の裁量の範囲を逸脱、濫用をしたもので違法」としています。 また、中野非常勤保育士解雇無効裁判でも、「保育士の職務」に言及し、「保育士という職務は、専門性を有する上、乳幼児に対する保育に従事するものであって、職務の性質上短期間の勤務ではなく、継続性が求められる」としています。 いずれの判決も保育の質に踏み込んで自治体の実施責任を追及しています。これらの判決を受けて、茨城県つくば市では、来年4月の予定の民営化を延期することを表明しました。 2)民営化・民間委託で「保育の質」が下がることが明確に この間の民営化・民間委託が「子どもの利益より自治体の経費節減と企業の利益優先」であったとする実例は、枚挙にいとまがありません。04年4月の委託開始後僅か半年で職員8人が退職した文京区の例。委託開始3ヶ月で6名が退職。引き継ぎ時の園長も退職し、委託した区自身が改善勧告を出す事態に至った練馬区光が丘第8保育園の例。保護者が設立したNPO法人に委託をした練馬区の向山つつじ保育園は、引き継ぎ職員が確保できず委託開始の4月に12名、3ヶ月後の6月でも6名の職員を出張の名目で派遣。豊島区は、委託先の社会福祉事業団が保育園の運営が初めてということで、職員を当分の間(3〜5年)派遣などです。 公立保育園の民営化・民間委託反対の闘いで、私たちは保育の質が低下することを主張してきました。当局は保育の質は変わらないと主張しましたが、これらの実例は、経費節減を理由とした市場化は、利益優先が保育の質を低下させ、@安い賃金と劣悪な労働条件で職員が集まらず、働きつづけられない。A「保育者の経験の積み重ねと専門性」が反映されない未経験の大多数の新規採用者に頼らざるを得ない。B保育者集団が崩されることによる保育環境の低下など「保育の質」が下がることを示しています。 3)取り組みの基本 @情勢や背景、実情を的確につかむ学習を、繰り返し組合員・保護者、住民等と行います。 A宣伝を全区民的規模で広げます。 B保護者・住民をはじめ、民間保育園や保育関係団体等と様々な共同をひろげます。 C単組としての闘争体制を引き続き強化します。 4)具体的な取り組み @この間の民営化・民間委託の闘いは、「徹底して知らせる」ことから始まりました。民営化・民間委託の提案だけでなく提案の背景となっている「構造改革」の動きやねらい、各地で起きている実態などを職場と保護者・住民に知らせます。 A「保育の質」とは何かを明らかにし、「保育の質の確保は、保育者と保育者集団の経験の積み重ねと専門性」によることをわかりやすく宣伝し、保育者自身の質を高め実践を強めます。 B保護者・住民との共同を貫きます。「住民こそ主人公」を常に確認し、共同の形態は、職場の知恵を力に保護者の意識や団結に配慮し、形にとらわれず運動の発展の中で様々な形態を工夫していきます。 C非常勤・臨時・パート労働者の組織化は、委託化を許さない取り組みをすすめる上で急務です。 3.「認定こども園」法の成立を受けて 1)認定こども園法の成立と課題 「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律案」(幼保総合施設=認定こども園)法は、4月の国会上程後わずか2ヶ月で、6月13日に参議院で可決成立しました。幼保総合施設としての「認定こども園」が浮上してきた背景には、経済財政諮問会議の報告が、「幼稚園と保育園の基準の低い方にあわせる」とし、「直接入所方式」や「保育料の自由設定」を提言したことにあります。今回の幼保総合施設の出発点は、子どものことを考えての幼保総合施設ではなく、福祉としての保育を放棄し、保育の市場化、企業の参入の可能性を広げることが目的と言えます。 法案の成立により、「認定こども園」は10月実施を想定しています。都道府県は、国のガイドラインを参考にして「認定こども園」条例を作成し、「認定」が具体化されます。東京都は、第3回定例会(9月議会)で条例を成立させるよう準備を始めています。 2)取り組みの基本 @組合員・保護者などと学習します。 A保護者・住民をはじめ、問題点等を宣伝します。 B国・東京都・市区町村に対し、子どもの最善の利益を守り、自治体の保育の実施責任が保たれるよう要請等に取り組みます。 3)具体的な取り組み @組合員はもとより、保護者・住民、幼稚園関係者や民間保育園をはじめとした保育関係者との学習を広げます。東京自治労連として、2.4.5の課題とあわせ、組合員向けの学習リーフを作成します。 A自治労連リーフ等を活用して、6月中に保護者・住民への宣伝を行います。 B国のガイドラインへの解明や要請を、自治労連に結集して取り組みます。 (@)ガイドラインに対する情報を的確につかみ、広げます。 (A)ガイドラインのパブリックコメントに単組・支部(分会・部会)はもとより、職場から意見を上げていきます。 (B)各自治体から国に対し、意見を上げるよう要請します。 (C)その他、自治労連の取り組みに参加します。 C東京都の「認定こども園」条例化に対しては、保育の質を保障し、子どもの権利を守る水準を確保するため、 (@) 保育関係団体や全教などと懇談し、保育関係団体や幼稚園関係団体と共同して取り組みます。 (A)東京都当局にむけて、東京都条例への要請を共同して早急に取り組みます。 (B)都議会にむけた都議会向け署名や全都議会議員への要請など、各単組や各団体と共同して取り組みます。 (C)市区町村から東京都に対し意見を上げる取り組みや、各自治体議会要請など意見を上げる取り組みを進めます。 D自治体での基準や保育に欠ける子どもへの対応など、必要な制度の構築をめざし市区町村に対する要請等に取り組みます。 4.子育て推進交付金と地域の保育水準を維持・発展させる取り組み 1)交付金=一般財源化での課題 東京の保育水準を維持してきた「都加算補助制度」は、06年度より「子育て推進交付金」に変わりました。「子育て推進交付金」化により、東京都は、保育の実施に対する責任を放棄し、保育基準を自治体まかせにしました。どのような保育水準を提供するかは、各自治体が決めることになります。東京都に新たな保育基準を確立させる取り組みと、区市町村の現行の保育水準をもとに、地域の実情を反映した保育基準を維持・発展させていくことが重要です。 2)取り組みの基本 @東京都の保育責任を明らかにし、「認定こども園」条例の基準も整合させた「新たな都基準」を求めます。 A地域の保育基準・保育政策を作る取り組みを、関係団体や保護者・住民と進めます。 B自治体財政への影響を調査し、必要な財源を確保できるよう、「子育て推進交付金」の改善を求めます。 C都区財政調整制度の算定基準を変更させない取り組みをします。 3)具体的な取り組み @「子育て推進交付金」の問題点を保護者・住民に広く知らせます。 A東京の新たな保育基準づくりを、「認定こども園」の基準づくりと結合させ、保護者・住民や福祉保育労など関係団体と共同して追求します。 B各自治体での具体的な基準・保育政策づくりをすすめます。 (@)地域の保育基準づくりをすすめるため、保育要求の把握や、保育政策づくりを保護者・住民、保育団体をはじめとする関係団体とともに進めます。そのための検討を単組を中心にすすめます。 (A)職場から労働条件を守り、保育の質を高める要求運動を通じた各自治体の保育基準づくりを進めます。 (B)そのための検討を単組を中心にすすめます。 待機児童解消や子どもの最善の利益を守るため、各単組で地域の保育政策づくりを保育基準づくりとともに、総合的な子育て支援として児童館、保健所、福祉事務所などと連携してつくります。 C自治体財政への影響を調査し、「子育て推進交付金」の改善を求め、市長会・区長会等との懇談や要請、都議会要請などに取り組みます。 5.未組織の組織化 1)保育労働者としての必要性労働条件の必要性 職場では、この間のリストラや事業拡大で、非常勤・臨時・パート労働者が増えています。非常勤・臨時・パート労働者は、雇用形態が違っても自治体労働者です。職務の内容は自治体によって異なりますが、正規職員より劣悪な労働条件にある現状を改善することが求められています。 また、給食の委託先や増大する委託労働者の組織化で、委託された現場の実態をつかみ、労働条件や職場環境の改善も可能となります。 2)取り組みの基本 @非常勤・臨時・パート労働者、委託労働者等未組織労働者の労働条件の改善をすすめ、組織化の働きかけをすすめます。 A公的保育を守る仲間として、組織化を図り、闘いをすすめます。 3)具体的な取り組み @すでに配布済みの自治労連パンフの配布など、組織化の具体的な働きかけをすすめます。 A共同の学習や交流を通して、各単組において公務公共一般との共闘を深め、職場から組織化を図ります。 |
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以 上 |