東京都「板橋キャンパス再編整備基本構想」に対する見解
−何ひとつとしてメリットの無い地方独立行政法人化等−
2007年7月25日
東京自治労連中央執行委員会
1 地方独立行政法人化とナーシングホ−ム民設民営化を打ち出す
 東京都福祉保健局は、5月31日に「板橋キャンパス再編整備基本構想」(以下、「基本構想」という)を発表しました。
 基本構想では、板橋キャンパスを構成する、日本随一の高齢者専門病院である「老人医療センター」と世界有数の高齢者専門研究所である「老人総合研究所」を一体化し、公営企業型地方独立行政法人(非公務員型)「健康長寿医療センター(仮称)」を設立。
 指定介護老人福祉施設及び介護老人保健施設である「板橋ナーシングホ−ム」については、民設民営の新たな施設としての整備を打ち出しています。

2 結論ありきの基本構想検討
 東京都当局は、昨年7月13日に「行財政改革実行プログラム」を発表し、「老人医療センター・老人総合研究所を一体化し、地方独立行政法人への移行を目指すこととし、また、板橋ナーシングホ−ムについては、民間の活力を活かした運営形態に転換する。」として、平成19年度に基本計画、平成20年度に実施計画、平成21年度に地方独立行政法人設立予定とする具体的な日程を含めて打ち出していました。
 これを受けて、都福祉保健局において基本構想の検討を進めてきたものですが、結果的には「行財政改革実行プログラム」に基づく具体化に過ぎません。
 利用者・都民・関係者の意見を反映するための対応もなく、密室での検討が行われるとともに、都民の医療と福祉に責任を有する所管部局としての視点からの検討さえ見受けられない、「結論ありき」の検討と言わざるを得ません。
 「行財政改革実行プログラム」では、都立病院についても「地方独立行政法人化などを視野に入れ、新たな経営形態のあり方を検討する。」としており、老人医療センター等の行方は、都立病院全体に大きな影響を持つものです。
 しかし、5年前の「都立病院改革マスタープラン」では、老人医療センターと豊島病院の統合・民営化が打ち出されていたように、十分な検討も方向性も理由さえ無いままに、安易に地方独立行政法人化等の基本構想が決定されたことは極めて問題です。

3 都当局の主張する地方独立行政法人化のメリットはすべてデメリット
 私たちは、この間、都立病院等の地方独立行政法人化について、@医療をコスト削減の対象とするものであること、A地方独立行政法人化は都民不在・職員犠牲の都立病院等運営をもたらすこと、B地方独立行政法人という運営形態では、東京都自らが掲げる「安定的で継続的な行政医療提供」は構造的に不可能であること、として、基本的な問題点を指摘してきました。
 今回、都当局は、基本構想の中で、「公営企業型地方独立行政法人(一般型)としてのメリット」について、「公営企業型地方独立行政法人(一般型)を選択することによって、健康長寿医療センター(仮称)は、迅速な意思決定と機動的な経営が可能となり、また優秀な人材の確保や産・学・公の積極的連携の推進など様々なメリットを活かすことにより、都民のニーズに即した多様なサービスの提供が一層可能となる。」と結論付けています。
そして、具体的には、@計画的な運営・管理、A課題への迅速な対応、B産・学・公の積極的連携、C柔軟な人事・給与体系、D機動的・効果的な運営、E都民負担の軽減、F分りやすい業務運営、の7点に整理しています。
 しかし、メリットと称するこれらの問題は、以下に示すとおり、すべてについてデメリットに他ならず、何一つとして利点の無いものであるといえます。

(1)直営でこそ計画的運営・管理が可能
 「中期目標等の策定に基づき、計画的に業務を運営・管理する」としていますが、そもそも直営であっても、計画立案は可能であり、むしろ長期的計画や行政他分野との連携を踏まえた総合的計画策定は地方独立行政法人(以下、法人という)には不可能です。
 法の規定では、中期目標期間を定め、当該期間経過後に設置自治体が、組織・業務全般を見直し、業務継続の必要性や組織のあり方検討、解散まで規定されています。つまり、法人は中期目標期間以降の計画立案ができないばかりか、自らの意思に関わり無く、見直し・解散などを余儀なくされるため、長期的視野に立った運営は本質的に不可能です。
 また、直営であれば、自ら財政権限を有するため財政的裏づけを持った計画立案が可能です。しかし、法人は、基本的に都の交付金決定に財政運営が左右されるため、真の計画的運営管理はできません。

(2)課題に対する迅速な対応はより困難に
「法人トップのリーダーシップのもと、迅速な意思決定と機動的な経営が可能」としていますが、中期目標期間ごとの設置自治体による見直しや、都支出交付金規模に運営が大きく左右されるなど、事実上のトップは都当局です。
従前から第3セクター運営に対して指摘されているように、最終的な責任の所在が当該法人に無いシステムは、結果的に迅速な意思決定と機動的な経営を阻害し、公務・民間企業よりも意思決定が遅く、融通の利かない組織といえます。

(3)連携はより困難に
都立病院は、「都民に対して、安定的かつ継続的な行政的医療を提供する」ことが基本的役割であり、そのためには都保健福祉局内の様々な分野との連携こそ重要ですが、別法人として都と切り離されることに伴い、連携が弱くなることは明白です。

(4)人材確保はより困難に
 都立大学の地方独立行政法人化によって、実に100人以上の教職員が退職し、地方独立行政法人化された大阪府立病院が看護師不足で混乱が続いているように、人材確保が困難となることは明白です。
 特に、「一般型」は、地方公務員身分を剥奪するとともに、給与手当規定について法人業績を考慮するとしている法規定の存在、効率化最優先の都当局による人件費抑制の方向では、職員の労働条件は改善されることはありえず、結果的に人材確保は現行よりも一層困難となることは明白です。
 また、「多様な雇用形態の活用」と称した、不安定雇用労働者への依存を強める人事管理は、業務水準の安定性・継続性を、基盤から損なうものです。
 さらに、「職員の実績を反映した給与制度の採用によって、医師・看護師等の優秀な人材の確保に弾みがつき、モチベーションが向上する。」という主張は、成果主義賃金制度が民間企業において惨憺たる実情にあり、政府自らが「構造的欠陥」を指摘していることについてまったく踏まえていません。
 
(5)機動性・自主性を損なう
「長期契約によるコスト削減」を挙げていますが、地方独立行政法人は、中期目標期間ごとに組織のあり方そのものが見直し対象とされるため、長期に組織が存続することを前提とした措置は問題です。また、「中期計画等の範囲内で予算の流用や前倒し執行などが可能」「経営努力で生じた剰余金」「外部資金を自らの収入として活用」という財政運営を根拠として「自主性の高い運営ができる」としています。
しかし、通常収入の範囲で事業運営が十分に実施可能な場合が、この論理の前提であり、現実は、交付金削減により日々の運営にも影響が生じかねません。
首都大学東京では、研究費・教員人件費を使途とした一般運営交付金が年率2.5%の効率化係数(経営効率化見込みとして設定)で削減されており、このような交付金の毎年数%削減という手法は産業技術研究所にも適用されており、都立病院のみが免れるものではありません。経費削減を強要されるシステムを前提として、機動性・自主性は発揮できません。

(6)都民負担は実質的に著しい増加へ
 原則独立採算制によって、「一般財源からの補填額の減少につながり都民負担の軽減が図られる」という主張は、業務の公共性と費用対効果問題の視点が欠落しています。
 首都大学は、教員減少に伴う開講数大幅減、実践的英語教育レベル低下(ベルリッツ委託も教員が年に4回交代などの事態へ)など、深刻な学生への影響が生じています。
 公共的な業務は、その目的が達成されることが前提であり、その面での費用対効果こそ問われるものです。効率化の結果として、事業目的が達成されないことは著しい都民負担増といえます。

(7)より不透明な業務運営へ
 「中期目標、財務諸表、業務実績、評価結果、給与基準等、広範な事項を積極的に公表することによる、より透明度の高い業務運営が可能となる。」としていますが、地方独立行政法人化の大きな問題は、より不透明な業務運営へ移行することであり、都民の財産でありながら、都民の要求や声が届きにくくなることにあります。
 情報公開を保障する規定はほとんど無く、自治体における情報公開条例適用対象に比較して大きく後退すると共に、議会による監視・監督も大きく後退し、都民の要求や声が届きにくくなります。

4 ナーシングホーム民営化で福祉と医療・研究の連携は困難に
 板橋ナーシングホームの後継として民設民営施設の新設が打ち出され、デイサービスセンターや認知症高齢者グループホーム併設と共に、「健康長寿医療センター(仮称)が発揮する機能と連携した機能」を事業者公募条件とすることが示されています。
 しかし、民設民営施設と地方独立行政法人という運営主体の異なる施設同士が連携していくことは、困難であることは明白です。
 独立採算として、介護報酬の枠内で運営される施設が、都の求める機能を果たすための具体的な条件さえも検討されておらず、長年にわたって築き上げた福祉と医療・研究の連携が、今回の見直しによって崩壊の危機に直面することとなります。

5 いっそうの対応強化で計画の見直しを強く求めます。
 東京自治労連は、5月に「2007年度都立病院・老人医療センター地方独立行政法人化問題闘争方針」を確立し、行財政改革実行プログラムに基づく都立病院等の見直し方針に強く反対し、都民の医療等を守る闘いを取り組んできています。
 基本構想発表という新たな事態のもとで、一層の対応強化を図っていくものです。