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2007年8月10日 東京自治労連賃金社会保障部 東京自治労連保育部会幹事会 | |
公立保育園に対しては、民営化攻撃が激しさを増すとともに、調理業務などの民間委託化や人材派遣の導入など、一部業務の民間化も進行しています。 これらの実態は、以下に示すように明白な偽装請負・違法派遣の状況となっており、是正が求められます。 しかし、現在の状況は、現場において偽装請負・違法派遣の実態を形成することなしに、従前の保育の質を確保できないことを同時に示しています。 このため、運動の進め方において留意すべきことは、民営化反対闘争と同様に、保育の質を維持・改善をするための執行体制のあるべき姿を明確化し、その実現へ向けた闘いと結合して闘うことが重要となります。 1 拡大する一部業務委託、人材派遣導入 公立保育園においては、民営化攻撃とともに、内部業務の民間委託化や人材派遣導入が拡大しています。 東京自治労連加盟単組の給食調理業務民間委託については、品川区において全園業務委託が終了するとともに、墨田区9園、文京区1園、江東区10園、板橋区4園、足立区41園に達します。 また、人材派遣については、目黒区において育休・長期病欠代替で導入されるとともに、品川区では、育休・長期病欠・中途退職代替に加えて、一時保育・夜間保育(22時までの保育)・障害児保育等(特別支援保育)にまで活用が拡大している状況です。 こうした状況は、政府による総人件費削減攻撃を背景とした定数削減、公立保育園民営化推進へむけた条件整備としての職員数削減・新規採用抑制を背景としたものです。 2 格差・貧困問題を拡大する違法派遣・偽装請負 「派遣」と「請負」の制度概要や問題点は、次項以降で詳述しますが、「派遣」とは、派遣先の指揮監督下で働くものです。 しかし、これでは常勤雇用労働者が全て派遣労働者に置き替わってしまうため、法に基づいて「臨時的・一時的な業務」に限定され、派遣可能期間設定などの制約がなされています。 一方、「請負」とは、当該事業を受託事業者が自立的に全責任を持って遂行することです。 このため、「請負」として位置付けながら、派遣先労働者との共同で業務を行ったり、派遣先の指揮監督の下に業務を行うなど、臨時的・一時的手段である「派遣」を常勤労働者の代替として恒常的に活用することなどがいわゆる「偽装請負」です。 東京の自治体労働組合は、10年程度前から、学校給食民間委託反対闘争の中で、この偽装請負問題を政策的に深めてきています。しかし、当時は、この問題での世論形成にいたらず、運動面での前進に十分寄与することができませんでした。 現在の日本では、3人に1人の労働者が不安定雇用に置かれるなど、急速に不安定雇用が拡大し、さらに不安定雇用労働者が極端な低賃金と劣悪な労働条件下に置かれている状況であり、「格差と貧困問題」の主要因となっています。 このことが、社会問題化するとともに、当該労働者の闘いを経る中で、ようやく違法派遣・偽装請負の是正へ向けた行政指導が入るなど、適正化へむけた動きが始まっています。 自治体においても、自治労連の闘いが大きく前進し、栃木県野木町の派遣保育士12名の町直接雇用を実現するなど、大きな到達点も実現しています。 こうした情勢と闘いの到達点を踏まえて、積極的な取り組みを進めていきましょう、 3 「人材派遣」とは何か (1)派遣労働の解禁と原則自由化、 他人が雇用した労働者を自己の指揮命令下で働かせることは、ピンはねが生じることから、戦後の日本において、「労働者供給事業」として厳しく禁止されてきました。 雇用の原則は、労働者を雇用して自ら労働力として利用している者が使用者としての責任を負う「直接雇用」であり、この原則は、労働者派遣の合法化以降も変わりはありません。 派遣労働は、1985年に「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以下、労働者派遣法という)の制定によって、解禁されたものです。 しかし、1986年7月から施行された対象業務は、専門的な13業務のみでした。その後の1996年の法改正によって26業務に拡大され、1999年に大規模な法改正が行われました。 1999年12月1日施行の改正法は、対象業務について、原則自由(港湾運送、建設、警備、医療関係(医師・看護婦・保健婦)の4業務を除く。)とされました。 このため公立保育園の業務に人材派遣を導入することも可能となっています。 しかし、常用代替(常勤雇用労働者の代替として活用すること)を防止するために労働者派遣事業を「臨時的・一時的な労働需要」に対する手段として位置付けており、「同一の業務」について1年間を超えて派遣を受け入れてはならないこととされています。(例外は、改正前の26業務と一定期間に事業が完了する場合は3年間上限。育児休業や産前産後休暇代替は2年を上限。) (2)派遣労働期間の延長など更なる規制緩和 2003年にも労働者派遣法改悪が強行され、派遣受入期間が延長されました。 26業種及び、育児休業や産前産後休暇代替・介護休業代替は「制限無し」とされ、その他の業務は「最長3年」とされたものです。 しかし、常用代替を防止するために労働者派遣事業を「臨時的・一時的な労働需要」に対する手段として位置付けることは堅持されており、以下の要件が定められています。 (3)労働者派遣は3年間のみ 「同一の業務」について3年間を超えて派遣を受け入れてはならないこととされています。 このため、例えば、「調理」という業務にAという派遣労働者を2年9ヶ月受け入れた場合には、別の労働者であっても、別の派遣会社であっても3ヶ月を超えて派遣労働者を受け入れてはならないとされています。 さらに、中断期間が設定されれば受入れを継続できるものの、中断期間について、「3ヶ月を超えない場合には」継続しているものとみなされます。 現実的には、「調理」のような恒常的業務に3ヶ月以上の中断期間を設定することは困難です。 したがって、例えば、現在の保育園調理業務の民間委託が「請負」でなく「労働者派遣事業」である場合、最長3年間で直営に戻さなければならないこととなります。 さらに、法では、1年を超える派遣を受け入れようとする場合は、以下の条件が必要となります。 (4)労働組合の意見尊重義務 3年上限の業務については、1年を超える派遣を受けようとする派遣先は、あらかじめ、派遣先の労働者の過半数で構成する労働組合に対し、派遣を受けようとする業務、期間及び開始予定時期を通知し、十分な考慮期間を設けたうえで意見を聞き、その聴取した意見の内容などを書面に記載して3年間保存しなければなりません。 また、労働組合の意見を十分に尊重する義務があります。 (5)派遣労働者への直接雇用申し込み義務 同一労働者を1年を超えて雇用した場合に、派遣先は、その仕事に新たに労働者を雇い入れるときには、まず、その派遣労働者の意向を聞くことが義務付けられています。 また、受入れ可能期間(たとえば上限の3年間)以降も派遣労働者を使用しようとする場合、派遣先は、その時点で働いていた派遣労働者(それまでに労働者が何人か交代しても、期限直前に受け入れていた派遣労働者)に対して、雇用申し込みの義務が生じます。 しかし、自治体の場合は、雇用は任用行為となるため、こうした特定労働者に対する直接雇用申し込みはできません。 したがって、同一労働者を1年超えて雇用したり、3年の派遣期間を設定することも事実上不可能といえます。 4 「請負」とは何か (1)「請負」は自律した業務処理 派遣元企業が自ら雇用している労働者を、他の企業や自治体に派遣し、派遣先の指揮命令の下で業務に従事する形態は、「労働者派遣事業」です。 これに対して、「請負」により行われる事業(請負・委任のいずれの契約にせよ外部委託)とは、受託企業は委ねられた業務を独立して、かつ、自社の従業員を単独で指導監督して処理することです。 (2)「請負」による民間委託には法律上大きな制限が存在 法の適正な運用を確保する上でも、「請負」か「派遣」かの区別が問題になるため、職業安定法施行規則第4条は、「請負」について以下の4要件を示し、そのすべてを満たす必要があるとしています。 1号:作業の完成について、事業主として財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること。 2号:作業に従事する労働者を指揮監督するものであること。 3号:作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての業務を負うものであること。 4号:自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要となる簡易な工具を除く。)もしくはその作業に必要な材料、資材を使用し、または、企画、若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働を提供するものではないこと。 一部に解釈問題が発生するため、職業安定法の規定を補完するために、労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」が示されています。 なお、労働省告示第37号は、1986年に策定されたものですが、1999年7月に労働者派遣法が改正されたことに伴って、告示第37号を補強する文書として1999年11月17日に通達(労働省職発第814号「労働者派遣事業業務取扱要領」)が示されました。 この通達によって、いっそう運用基準が明確となっています。 5 保育園給食調理業務委託の実態と問題点 (1)保育園給食調理業務委託について @調理業務のみが民間委託で実施 保育園給食は、献立編成・食材購入・調理という一連の流れで構成される業務です。 現在、民間委託されているものは、この中で、「調理」部分のみとなります。このことは、献立作成や食材購入部分を民間委託した場合、献立内容と食材そのものが受託企業の利潤確保の対象とされ、安全性までも脅かされる危険性があることや、地元業者からの食材購入が確保されないなど様々な問題点が懸念されるためです。 「調理」のみの委託は、この間築き上げてきた質の高い給食水準のもとで、当局が「給食業務」をまるごと委託できないという側面を持っています。 A「労働者派遣」ではなく、「請負」で実施されている現行の調理業務民間委託 保育園給食調理業務の民間委託は、「請負」契約として実施されています。 労働者派遣法による場合は、期間の制限などの制約があるため、現在の給食調理業務民間委託は、「労働者派遣事業」と位置づけることは不可能であり、結果的に「請負」とならざるを得ないのです。 現行の保育園給食調理業務民間委託問題について、職業安定法施行規則第4条に基づいて検証した場合、以下の問題点が指摘されます。 B直営でなければ豊かな給食提供は困難 安全で豊かな給食を子どもたちに提供するためには、経験の蓄積に裏づけされた専門性が求められるとともに、何よりも安定性・継続性の確保が求められます。 これを民間へ委託することは、その基盤を損なうものであることは明白です。 さらに、調理業務の委託は、以下に示すとおり、規則4条の要件を満たしておらず、実態は「派遣」に他なりません。「派遣」である以上は、法制度的にも直営化が必要となります。 (2)自治体が、保育園給食に全面的な責任を負わない調理委託(法施行規則第4条1号) @園児の命に関わる業務に自治体が責任を負わないシステム 職業安定法施行規則第4条1号は、「作業の完成について事業主として財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること。」としています。 基本的に、区立保育園において食中毒が発生した場合の責任を全面的に受託業者が負うということは、社会的には到底容認されないものであり、公的責任放棄に他なりません。 とりわけ、保育園給食という園児の命に直結する業務の責任を自治体自らが全面的に負わないというシステム自体が極めて大きな問題といえます。 しかも、法の規定に基づいて、調理業務に起因する事故などの責任は受託業者が負うことについて、自治体当局が認識しているのか疑問です。 特に、受託業者との間で交わしている「保育園給食調理業務委託仕様書」の中に、事故発生時の賠償問題などの規定がされていないケースも多く、こうした事態は、あきらかに法の規定に反するものです。 A結果的に、責任の所在が不明確となる調理委託 実際に、食中毒や事故が発生した場合、調理業務を起因としたもの(受託業者責任)か、指示書を起因としたものか(区)、施設設備を起因としたもの(施設設備保有者は区であるが、メンテナンスに起因する場合は受託業者)であるかをめぐって、責任の所在が異なります。現実には、これら線引きは困難であり、結果的に責任の所在が不明確となります。 業者との契約書に責任問題を明記しないなど、自治体の側に責任の所在を不明確にする方向での対応が見受けられます。 東京都立盲ろう養護学校とその寄宿舎の事例では、異物混入や、「生揚げだった鳥の唐揚げ50食分を近所の肉屋さんから取り寄せた」「朝食が間に合わなかったので、急遽コンビニで仕入れてきた」などの事態に対して、東京都教育委員会は、調査はするものの、改善命令や業者指導さらに契約不履行行為への対応に消極的であったと、当該の都庁職員労働組合都立学校支部から報告されています。 B調理のみ委託の形態は「請負」ではない 献立編成・食材購入・調理という一連の流れで構成される給食業務について、調理業務のみを委託して、受託業者が「作業の完成について事業主として財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること。」は事実上不可能であり、現状の形態は「労働者派遣」に他ならないものです。 (3)自治体職員が委託先労働者に個々の指示を行ってはいけない「委託」では、給食業務は成り立たない(法施行規則第4条2号) @自治体職員による直接指導が認められない「請負」 職業安定法施行規則第4条2号にも明確なように、「受託業者が、作業従事者を指揮監督する」ことが「請負」の要件となっています。 このため、自治体職員である栄養士等が請負業者代表者と「調理業務指示書」で作業前に打ち合わせることに止まり、個々の調理員に対する直接・具体的な指示はできません。 告示37号でも、「医療事務受託業務」や「バンケットサービス」等の具体的事例を示しながら、委託者から受託業者へあらかじめ指示を行い、受託業者が作業従事者に指示することを明確に求めています。 A自治体職員と調理員の連携無しに保育園給食運営は不可能 「請負」である以上、指示書などの書面による事前の指示に限定されますが、保育園給食運営は、現場における関係職員間の連携無しには成り立たないものです。 調理現場においては、栄養士が個々の作業について細目をチェックし、個々の調理員を指導することは不可欠であり、調理業務は本来、栄養士の指揮監督の下で行うべき業務です。 また、日々の園児の体調などによって、提供される給食の内容は臨機応変に変更されるものであり、保育士など自治体職員との連携なくして日々の給食提供は不可能です。 (4)調理設備等の賃貸借契約を結ぶことが必要(法施行規則第4条4号前段) 職業安定法施行規則第4条4号に示されているように、「受託業者自らが提供する機械、設備、器材若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し、」業務を行うことが「請負」の要件となっています。 告示37号では、機械などの所有関係を問うものではないとしながら、「機械、資材等が相手方から借り入れ又は購入されたものについては、別個の双務契約による正当なものであることが必要である。」としています。 保育園の給食調理現場では、各種調理設備や器具類・食材が自治体側から業者に提供されています。 この場合、自治体と受託企業の間で適正な賃貸料を定めた賃貸借契約書の締結が必要となりますが、そのような契約となっていないため、この部分の要件は明らかに満たしていません。 (5)単なる肉体労働の提供であってはならない(法施行規則第4条4号後段) 職業安定法施行規則第4条4号後段部分では、受託業者が「企画、若しくは専門的技術や経験を必要とする作業であり、単に肉体的な労働を提供するものではない」と規定しています。 献立作成は栄養士が行うため、「企画」をしていないことは明確です。 「専門的技術や経験を必要とする作業」については、4号前段の「受託業者自らが提供する機械、設備、器材若しくはその作業に必要な材料、資材を使用」や、後段の「企画」との比較の中で判断する必要があり、単に「大量の調理を定められた時間内で行える」ことをもって、「専門的技術や経験を必要とする作業」とする口実は通用しないものです。 実態としても、未経験のパート労働者を多数雇用して業務運営を行っています。 学校給食調理業務の求人案内を調査したところ、パート労働者の時間給は、800円から900円でした。同様に、正規社員(有資格者)の賃金については、月額15万円から28万円までの範囲内であり、「企画」に相応する専門的技術・経験にふさわしい労働条件とはいえません。 こうした実態からも、職業安定法施行規則第4条4号後段部分を満たしているとは考えられません。 (6)実質的に従事労働者に対する使用者責任を果たせていない(法施行規則第4条3号) 職業安定法施行規則第4条3号は、「作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての業務を負うものであること。」としています。 調理職場においては、労働者自身の安全確保と安全な給食提供の両面において、労働安全衛生がたいへん重要となります。 請負の場合は、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理責任は受託事業者にあります。 しかし、自治体当局が所有する施設・設備を利用して請負労働者が働くシステムでは、受託事業者が労働安全衛生上の改善措置として自ら施設・設備を改善することはできません。 ある区の学校給食調理場において施設・設備の不備から一酸化炭素中毒事故が発生したように、労働安全衛生管理は施設・設備に起因するものが多くを占めており、施設設備の所有なくして労働安全衛生責任は果たせないものです。 6 保育士等の人材派遣導入実態について (1)恒常的業務への人材派遣は違法 労働者派遣は、「臨時的・一時的な労働需要」に対する手段であり、「同一の業務」に対して、最大でも3年間を超えて派遣を導入することはできません。 しかし、品川区においては、育休・長期病欠・中途退職代替に加えて、一時保育・夜間保育(22時までの保育)・障害児保育等(特別支援保育)といった恒常的業務に派遣が導入されています。 この場合、最大3年を超えることは法制度上不可能であり、1年を超える派遣を受けようとする際に、区当局が当該労組に対して、派遣を受けようとする業務、期間及び開始予定時期を通知し、十分な考慮期間を設けたうえで意見を聞き、その聴取した意見の内容などを書面に記載して3年間保存していなければ違法であり、直ちに直営化を行わなければなりません。 (2)継続性・専門性の確保できない現状 育休代替や介護休業代替については、期間制限はありませんが、導入されている自治体においては、大きな問題点が噴出しています。 導入の際に、当局側は、労働時間が常勤職員と同様であることに加えて、派遣保育士の専門性が高く、常勤職員の代替として機能すること、安定的・継続的に派遣されることを強調し、導入を強行してきた経過があります。 しかし導入後の実態は、以下に示すとおり当局側の主張と大きくかけ離れたものとなっています。 @担保されない継続性 保育園運営において職員の継続性確保は重要な課題ですが、「派遣」は人材派遣会社と自治体との契約に基づくため、競争入札に伴う業者変更を避けることができません。 ある区では、10月に人材派遣が導入されたものの、競争入札に伴って、半年後には派遣会社そのものが交替し、派遣保育士全員が入れ替わるという事態が生じています。 また、相次ぐ中途退職と、欠員の長期間放置も指摘されています。 ある区では、中途退職の多数発生に加え、仕様書の中で、「派遣保育士が3日以上の休務となる場合、代替の保育士を派遣。」としているにもかかわらず、欠員放置が長期化し、やむなく、自治体当局が欠員補充臨時職員を雇用したケースまで生じています。 A常勤職員の代替を果たせない 育児休業代替等の派遣保育士の場合、常勤職員の代替であるため、多くの場合、仕様書の中で、資格要件のほかに「原則として実務経験が2年以上の者」とするなど、「経験」者の配置を求めています。 しかし、現実には、@保育経験が無かったため、0歳児クラス配置に対する緊張のあまり腰痛を発症し退職、A幼稚園の雑用助手経験のみで、子どもがなつかず、一人では保育を任せられない、B乳児医院経験で保育園経験が無いため、複数の子どもを保育できない、など現場が求めている「保育士としての保育実務経験」とはかけ離れた実態です。 (3)継続性・専門性を確保できない構造的要因 このように、「派遣」という形態が、継続性・専門性を確保できないことには、以下の構造的要因があるものです。 @劣悪な派遣職員の労働条件 派遣労働者の賃金水準は、自治体の臨時・非常勤職員を下回る劣悪な水準です。 現実に自治体に派遣されている2社の事例を見ても、A社は時給制で1時間1050円、B社は月給制16万8千円(時給換算で969円)。 いずれの場合も、当該自治体の臨時・非常勤職員賃金を下回っており、このような、低賃金でありながら正規職員並みの労働を求めるのでは、中途退職等定着率の低下は免れません。 また、自治体当局が人材派遣会社に支払う金額の事例は、時間単価換算で1428円(時間外1785円)であり、労働者還元割合は7割に及ばない実態です。 これでは、税金の使い方としても社会的に問題があるのではないでしょうか。 このほか、派遣保育士が妊娠したケースでは、妊婦通勤時間が保障されないなど、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」などが求める水準に達しない劣悪な労働条件の実態も明らかとなっています。 A派遣会社の人材確保実態の現状 自治体当局は、「必要な時に、必要な人員が速やかに派遣される」と主張するものの、実際の人材派遣会社による採用行為も、自治体との派遣契約後、あるいは派遣職員退職後に求人広告を行うものに過ぎず、「速やかな配置」は物理的に困難であることは明白です。 低すぎる賃金水準に伴う人材確保の困難性から、長期の欠員放置が生じるとともに、以下の問題が生じています。 採用募集行為から職場配置までの期間が短く、ある区の事例では、履歴書持参締め切り日の4日後には公立保育園に配置がされています。 このような実態では、履歴内容の確認・審査は困難であるとともに、仕様書に明記される「個人情報の保護や法令等の遵守」に基づいて、派遣労働者に対して派遣会社から十分な指導や教育が行われているとは考えられない実態です。 (4)脅かされる個人情報 適切な保育を行ううえで、園児の健康状態、保護者の勤務先や電話番号はもとより、家庭生活の実態まで把握する必要があるため、保育園は、自治体業務の中でも最も住民のプライバシーが集積される職場といえます。 このような職場に、法律上の守秘義務を持たない民間労働者が配置されることとなります。 新聞紙上をにぎわす、大企業などの個人情報流失事件に派遣労働者の関与が指摘されることが多いように、公務員ではない民間労働者を配置することにあたって、個人情報保護の対応が重要であるにもかかわらず、先に示したように、派遣労働者に対する派遣会社からの十分な指導や教育は行われていない実態となっています。 7 対応の方向〜執行体制のあるべき姿を確立し、庁内外世論を形成して直営化の運動を正面に 公立保育園の中から、「違法派遣」「偽装請負」を一掃することは極めて重要です。 しかし、単に違法性を指摘し、その改善を求める取り組みでは、業務の委託や派遣を前提とした適法化にとどまり、かえって保育水準の低下に直結することとなります。 請負・派遣問題との闘いは、公立保育園民営化反対闘争と同様に、保育の質を維持・改善するための執行体制をめぐる闘いであり、直営による業務運営で無ければ保育の質を維持・改善することができないことを明らかにして、直営化を対置した闘いと結合していくことが重要です。 @ 当該業務について、直営でなければ保育の質を維持・改善が図れないことを明らかにし、庁内及び利用者・住民に広く宣伝して、庁内外世論を形成します。 A 委託業務・派遣導入の直営化要求を確立して、その実現へむけた闘いを進め、この闘いの中で、偽装請負・違法派遣問題是正を求めていきます。 B 自治労連の提起する「偽装請負」を見分けるチェックリストなどを活用して請負・派遣の実態を検証し、違法状態を具体的事実として整理します。 C 検証作業を進めるにあたって、請負・派遣問題に関わる学習活動を重視します。 |