| |
2007年9月5日 東京自治労連中央執行委員会 | |
新設公立保育園2園を営利法人委託によって運営し、さらに「新行財政改革基本計画」の中で既設園2園の民営化計画を打ち出した文京区において、保護者と当該単組・分会の主体的で粘り強い闘いが展開されてきました。 そして、保護者を含む検討委員会報告を受けて、本年3月に策定された文京区の「保育ビジョン」において、「現在17園ある公設園については、『公設公営保育園』としてより一層大事に維持していく。」と明記され、改定された「新行財政改革基本計画」から公立保育園民営化計画が削除されたことは、保育園民営化の流れを断ち切った画期的な到達点として、都内はもとより全国の関係者を大きく励ますものとなりました。 3年6ヶ月にわたる文京区の闘いの経過と到達点を改めて整理し、その教訓を共有化していくことは、全都の保育園民営化反対闘争をさらに発展させていく上でたいへん重要であると認識しています。 このため、先に決定した「公立保育園の民営化に対する運動の到達点と今後の運動方向について」(5月23日付中央執行委員会決定)に基づき、当該単組・分会へのヒアリング調査も実施したうえで、東京自治労連として、この闘いの経過と到達点を改めて整理するものです。 1 民営化の流れを断ち切った文京区 文京区では、02年11月に区立かごまち保育園、03年4月に区立根津保育園と新設園が相次いで営利法人(潟xネッセコーポレーション、鞄本デイケアセンター)に運営委託されています。 政府・財界の構造改革路線に基づき、2000年に営利法人による認可保育園運営を可能とする規制緩和が強行されましたが、文京区は極めて早い段階で保育の市場化を推進したものです。 さらに、03年9月に発表された「新行財政改革推進計画(素案)」において、04年から08年度までに既設2園(本駒込、久堅)の公設民営化を打ち出したものです。 この段階から、保護者と単組・分会の全面的な闘いが展開され、「新行財政改革推進計画における保育園のあり方検討協議会(第1次から第3次)」及び「文京区保育ビジョン策定検討委員会」に至る保護者による区当局との粘り強い協議を中心に、実に3年6ヶ月にわたる公設公営保育園を守る闘いとなりました。 節目ごとに到達点を得ながら、ついに本年3月に「文京区保育ビジョン策定検討委員会報告」の内容を全面的に踏まえた「文京区保育ビジョン」が策定され、同時に改定期を迎えた「新行財政改革推進計画」において、公立保育園民営化計画が削除されたものです。 これを受けて、民営化を前提とした退職不補充方針に基づいて、現時点で生じている14名の欠員についても来年度の職員新規採用計画の中で補充することが確認されています。 2 画期的な「文京区保育ビジョン」 (1)将来像は「子どもたちの豊かな成長と子育て家庭の暮らしを保障するまち」 「文京区保育ビジョン」は、就学前の子どもに係る分野の基本理念・基本目標を示し、文京区地域福祉計画及び文京区子育て支援計画の具体化及び計画見直しの際の基本指針と位置付けています。 そして、「子育て支援に関するアンケート調査」結果など、保育を取り巻く現状分析を踏まえて、「子どもたちの豊かな成長と子育て家庭の暮らしを保障するまち」を将来像としたうえで、4つの方向性、それぞれの目標、施策のための具体案を示しています。 住民生活実態を踏まえて、区=地方自治体の果たすべき役割を明確化しており、何よりも「一人ひとりの子どもの幸せを第一に考える社会」「安心して子どもを産み育てることができる社会」「地域ぐるみで子育てを応援する社会」を将来像として明確化した上で、具体的な方向を打ち出したことは、少子化対策を課題に掲げながら国民の真に求める施策が展開されない現状において、極めて画期的なものといえます。 特に、4つの方向性として「子どもの育ちを見通した豊かな乳幼児期の保障」「子育て支援・親の支援」「親の就労・多様な生き方の支援」「保育機能の中核としての保育園」が示され、まちの環境整備から医療体制の充実、雇用・就労問題まで全面的に展開され、「女性活用・パート労働者の均等待遇、両立可能な職場づくりなどに成果を上げている企業に対する入札制度での優遇措置」を示すなど、公契約の面でも踏み込んだ具体案が提示されており、この分野においても画期的な前進といえます。 (2)「保育機能の中核としての保育園」を位置付ける 「文京区保育ビジョン」の最大の特徴は、保育園を「保育機能の中核」と位置付け、保育園の具体的役割と、そのための機能強化を打ち出し、「保育機能の中核にふさわしい質と、人材、設備を備えることが重要」とするとともに、既存の公設公営保育園を子育ての拠点として維持していくことを明確化したことです。 「保育の質の維持・向上を図っていくことが大切」として、「保育の質」に着目した上で保育園の機能を高めるための具体案を数多く示しています。 そのひとつが「公設公営保育園の維持」であり、「現在17園ある公設園については、子育ての拠点として機能する『公設公営保育園』としてより一層大事に維持していく。」と明記しています。 さらに、保育の質を担う「保育士」へ着目しており、「高い保育技術と専門性を持つ保育士の確保と施設設備等の向上を図る」として、「年齢の偏りのない人員配置により、高い『保育の質』を次世代へ継承していく。」「ゆとりある労働環境を整備する。」などを打ち出すと共に、公設公営保育園については、「保育士が現在定員割れを起こしている状況を早期に改善し、配置基準通りに配置していく。」、役割の増加に伴う負担への対応として「配置基準の見直しを行う。」としています。 わたしたちは、「保育の質」を維持・向上させる上で、公設公営園の必要性、職員体制の重要性を一貫して主張してきたものですが、こうした主張を全面的に踏まえた内容が自治体の基本理念・基本目標として位置付けられたことに大きな確信を持つものです。 3 闘いの到達点としての保育ビジョン〜策定までの経過 画期的な内容の「文京区保育ビジョン」策定に至る経過は、まさに文京区当局による保育切捨て計画に対する関係者の長期間にわたる粘り強い闘いによって、区当局の姿勢そのものを変えてきた経過といえます。 (1)既設公立保育園の民営化計画 新設保育園2園を営利法人に委託するなど、政府・財界の構造改革路線に基づく保育の市場化を推進してきた文京区は、03年9月に「新行財政改革推進計画(素案)」を発表します。 同計画は、04年から08年の5カ年計画として、職員数の300人程度純減と、公共施設見直しを重点に掲げており、保育園については既設2園の運営業務民間委託(04〜06年度に本駒込保育園、07〜08年度に久堅保育園)を実施し、保育園職員57名を削減するという内容でした。 これに対して、保護者(文京区認可保育園父母の会連絡会)による署名運動等、区職労保育園分会による要請行動・区長要請はがき・署名などの運動が展開される中で、04年1月に発表された「新行財政改革推進計画(案)」では、具体的園名が削除され「今後5年間で2園を民営化予定」と表記変更されます。 さらに、「2園の民営化にあたって、6ヶ月程度の期間を設けて保育園保護者と民営化に関する諸課題を検討する」としたうえで、04年3月に「新行財政改革推進計画」が決定されたものです。 (2)新行財政改革推進計画における保育園のあり方検討協議会 @第一次協議会(04/2/10〜04/8/20、全16回) 「新行財政改革推進計画」に基づき、「新行財政改革推進計画における保育園のあり方検討協議会」(以下、協議会という)が設置され、その目的は「新行財政改革推進計画の策定に当たって、子どもの最善の利益を実現することを目的に、保育園のあり方、諸課題を検討する。」であり、区側から福祉部長以下4名、保護者側16名で構成されました。 保育の質の維持・向上、子育て支援機能への対応について認識が一致したものの、保育園運営4方式(公設民営、民間移管、地方独立行政法人化、公設公営のままの改革)の比較検討は未了となり、05年4月の公設民営化実施の延期及び6ヶ月間の協議延長を決定して、当初予定の6ヶ月を満了しています。 A第二次協議会(04/11/19〜05/3/19、全9回) 第二次協議会は、構成員として区側に企画経営部が加わると共に、保護者側は第一次で不参加であった5園を含めて公設公営全17園の保護者委員が参加し、公立保育園のあり方、保育園運営4方式比較検討を進めました。 この協議の中で、保育園の将来的な展望を示す具体的な方針が明確でない中で、保育ビジョンの必要性について双方が確認しています。 しかし、保育園運営4方式比較検討、保育ビジョンにかかる検討を積み残し、協議継続が確認されています。 B第三次協議会(05/4/8〜05/12/22、全8回、ワーキンググループ全24回) 第三次協議会は、保育園運営4方式比較検討、保育ビジョンについての検討・協議・評価を行うことを目的として開催され、論点整理と事実確定、資料作成のためのワーキンググループ設置による精力的な協議を行うと共に、区民説明会を実施しています。 最終的に、06年4月民営化は、準備期間も短く、検討内容に関する諸問題も山積し見送る必要があること。また、保育園改革には保育ビジョン策定、その存在が大前提であり、「行革計画の平成18年度中における中間見直し」とも歩調を合わせつつ、抽象論にとどまらない具体的な保育ビジョン策定を着実に行う必要があることを確認しています。 C「保育の質」を全面に位置付けた協議 協議会では、区立保育園現状分析(園長ヒアリング保育園運営上の課題)、他自治体の見学、公設公営保護者1620世帯対象のアンケートも実施され、保育の質に係る検討が行われています。 この中で、「保育士の持つ能力及び経験、連携が『保育の質の確保』における重要な要素。」「現状の『保育の質』を保護者が高く評価していることが明らかとなった。」としています。 このことが、保育園運営4方式比較検討の中でも、「保育ビジョン策定が議論の前提。」あるいは、「保育の質を保つためにはベテランと若手のバランスよい保育士配置が不可欠で民営化で運営費が低く抑えられるとは必ずしも言い切れない。このため、経費削減を理由とした保育園改革では区民からの理解は得られない。」「行政サービス効率化を意識するあまり、大前提である子どもの立場から見た保育の質の確保という原則が忘れ去られることのないようにしなくてはならない。」という報告書記載内容に反映しています。 D行政当局に対する保護者の不満拡大 05年7月に3回実施された協議会検討内容についての区民説明会は、延べ300名を超える参加があり、区民意見は述べ368件に達しましたが、「なぜ子育て行政のコスト削減を行うのか」といった「行革そもそも論」が最大多数でした。 第三次協議会に入る時点での保護者側委員の課題整理においても、第1の課題として、「区側の『新行財政改革推進計画』あるいは公立保育園民営化計画自体について大きな疑問が生じている」として、「保育の理念や具体的ビジョン提示がないにもかかわらず、5年間の退職見込み数に基づいて2園民営化という区側理由説明に対する疑問」「『多様な保育メニュー』実現のために民営化としながら、公設公営園での実施も具体化しつつあり、民営化根拠は弱まっている」「区財政をめぐる経済社会状況が当初見込みよりも良好に推移」などをあげています。 加えて、区当局の不誠実な姿勢に対する保護者の不信感が深まり協議が空転する局面も多く、第二次協議会後半はかなり危機的状況でした。 当時の保護者側委員文書では、「本来は区当局が提供すべき客観的な資料や試算のために多大な労力を費やしてきた。ところが区側は事実関係の把握も対応策の検討もない。」「区側の仕事ぶりのいい加減さが明らかになる一方、区側姿勢に変化が見られない。」「徒労感が広がり、他方納得感はゼロ。」 さらに、本協議会からのレポート提出を強く求める一方で、「その後は区長の判断」という区側の姿勢や、区民説明会における合意済み資料差し替えが生じたため、保護者側委員による05年7月15日の助役面談、8月3日の区長面談による経過と事実関係説明が行われる事態に至りました。 区側計画の有する本質的な問題点と、これに基づく区側の不誠実な対応が、公立保育園民営化の問題点を区民に強く明らかにしたものと言えます。 (3)文京区保育ビジョン策定検討委員会 協議会における到達点を踏まえて、06年5月29日に「文京区保育ビジョン策定検討委員会」(以下、委員会という)が設置されました。 保護者5名、公募委員4名を含む20名で構成され、汐見稔幸東京大学大学院教授を会長として、9月15日から07年3月2日まで全9回、4つのワーキンググループ延べ12回開催されています。 06年12月から07年2月まで4回の区民説明会開催を含めた区民意見募集では180件が寄せられ、これら区民意見、協議会の到達点、保護者委員の精力的な努力の中で、画期的な報告書が発表され、これを全面的に踏まえた「文京区保育ビジョン」が前述のとおり策定されたものです。 4 区側の姿勢変更を勝ち取った保護者の主体的な闘い 公立保育園保護者の長期間にわたる主体的な闘いを抜きに今回の到達点は、築きえませんでした。 文京区では、民営化計画発表時点で、公立公営保育園17園中15園に父母会が組織され、「文京区認可保育園父母の会連絡会」(以下、父母連という)に参加すると共に、父母連も独自ニュースを発行するなど独自の活動が行われており、このことが迅速な保護者の運動を可能としています。 また、運動の中で、残り2園にも父母会が新設されるとともに、父母連による一貫した対応が、民営化対象園の保護者に限定されない全区的な運動展開となった基盤といえます。 「新行財政改革推進計画(素案)」後速やかに父母連主催による「文の京の保育園子育て支援を考えるシンポジウム」開催、区長宛要請署名1万6千筆を集約しており、この取り組みによって協議会設置などが実現しています。 当初は、「『より良い行財政改革の推進に貢献したい』との観点から、民営化に絶対反対との立場ではなく、文京区の保育の質の維持・向上という行政当局側との共通の目的に向かって進んでいこう」という姿勢で協議会に臨んでいます。 しかし、客観的な事実の積み上げと分析を重ねる中で、「保育の質」を維持する限り、どの手法をとったとしてもコスト削減効果に大きな差がないことが判明し、逆に「保育の質の低下」のおそれがあることが判明するとともに、協議会を通じて区の考え方・対応を知れば知るほど、「区に任せてはおけない」「行革のために保育園を安易に民営化していいのか」という強い思いで、協議会へ対応するように大きく変化しています。 特に、05年7月の区民説明会では、改めて「行革そもそも論」が噴出し、最終日には満場一致で区長との対話を求める決議が採択されています。 さらに、父母連による保護者アンケート、対区要望書提出などの取り組みが、展開される中で、05年12月12日の協議会への区側委員全員欠席や、「報告書提出を受けたうえで、最終的には区長が判断する」等の不当な区側の姿勢を押し返して、今回の到達点を作り出したものです。 5 文京区職労・同保育園分会の原則的で粘り強い闘い (1)つくりだした父母との共同 父母の主体的な闘いと取り組みの姿勢を支えたものは、当該単組・分会による原則的で、粘り強い取り組みに他なりませんでした。 「新行財政改革推進計画(素案)」発表時点では、父母連側は、職員労働組合に対して「情報交換はしながらも運動は別々に」との申し入れを行うなど、父母連との共同行動を実施することはできませんでした。 対区要請署名についても、労組の「文京区の公立保育園の運営を民間に委託することに反対する要請書」に対して、父母連は「公設民営化提案を撤回した上で、保護者の参画のもとに公立保育園の改革案を6ヶ月程度の期間をかけて検討すること」を求める署名であり、第一次協議会の中では地方独立行政法人化を主張する保護者委員も存在していました。 しかし、保護者自らの運動とともに、当該単組・分会の以下に示す原則的で粘り強い取り組みによって、父母連も職員労働組合との連携を行う姿勢に変化し、密接な連携のもとに取り組みが行われるように大きく共同が発展してきているものです。 (2)原則的で粘り強い保護者・地域へのはたらきかけ 当該分会の運動の大きな特徴は、保護者との共同を作り出すために原則的に粘り強い取り組みを重ねてきたことです。 署名・区長要請はがき、学習会や区民決起集会への参加呼びかけにとどめず、父母向け学習会や「公設民営化についてざっくばらんに話し合う地域懇談会」を積み重ねてきました。 さらに、質の高い保育提供の基盤としての公設公営の必要性を具体的な保育実践紹介を含めて継続的に保護者へ訴えるために、約20回、闘争期には毎週1回、全ての保育園において保護者向け門前宣伝行動を実施しており、このことが全保護者の理解を深め、つながりを強化していく上で大きな役割を発揮しています。 また、父母連主催の学習会や諸会議に保育ボランティアとしての協力も重ねました。 重要なことは、各種集会・懇談会に参加された決して多くはない保護者の方々と、粘り強く懇談を積み重ねる中で、保護者との信頼関係を築き上げて、つながりを広げ・深める中で、父母連そのものを職員労働組合と共同していく立場に変えていったことです。 特に、文京区保育ビジョン策定検討委員を中心とした保護者とは意見交換・資料提供・財政分析等のレクチャーをはじめとして、密接な連携を確保し、こうした単組・分会と保護者の連携によって文京区保育ビジョンの画期的な内容を導いたものといえます。 文京区職労は、従前から区財政分析の取り組みを毎年実施していますが、こうした取り組みの蓄積が、住民運動のニーズに対して的確・迅速に対応できる基盤ともなっています。 (3)職場組合員に依拠した取り組み 組織内では、「新行財政改革推進計画(素案)」に対して、見解発表、組織内学習会、課長要請行動を進めるとともに、「保育の質」を前面に押し出して保護者・地域にはたらきかけるために、職場組合員に依拠して「未来につなごう『文京の宝』保育の質」を作成・発行しています。 保育の質を維持・向上させるための執行体制のあり方をめぐる闘いの中で、保育労働者自らが、無形である「保育の質」について改めて整理し、統一したものとして確立することの必要性を踏まえたものです。 この冊子の作成には、職場代表で構成するプロジェクトチームを設置、各園意見を集約し、実に31回に及ぶ話し合いを積み重ねたものです。 こうした職場に依拠した「保育の質」の討議が、父母との共同が成立しない時点での10956筆を集約した署名運動、全園での継続的な父母向け宣伝をはじめとした分会の運動を職場から支え、保育実践に対する保護者の信頼確保などに結合しています。 |