2008年1月23日
東京自治労連中央執行委員会
特別職非常勤職員をめぐる新たな状況と安定雇用・均等待遇をめざす闘争方針(案)
1. はじめにー特別職非常勤職員をめぐる新たな状況
 いま、多くの自治体では職員の2割から3割を非正規労働者が占めています。
非正規職員の劣悪で不安定な労働条件を放置すれば、労働者全体の賃金・労働条件の改善は、はかれません。また、自治体行政の継続性・安定性・専門性が保障されないことから、東京自治労連は、自治体非正規職員の安定雇用と賃金・労働条件改善の課題を重視して取り組んできました。
 当該非正規職員と労働組合の粘り強い闘いによって、多くの一方的な「雇い止め」を阻止し、賃金・労働条件についても一歩一歩改善をさせてきました。
 こうした非正規職員の処遇改善をめざす闘いのなかで、特に東京都・特別区で多くを占める地公法3条3項3号を任用根拠としている特別職非常勤職員の継続雇用と処遇改善をめぐって、以下ような新たな状況が生まれていることから、労働組合として対応方針を示すものです。
@  中野区非常勤保育士東京高裁判決の積極的な意義と自治体当局の雇用継続に対する不当な対応
 07年11月28日の、中野区非常勤保育士解雇事件に対する東京高裁判決は、継続性が求められる恒常的な職務であり、任用回数が多数回となり、結果として職務の継続が長期に及び、再任用が形式的でしかない実態がある一方で、再任用拒否の必要性・合理性に疑問があり、回避努力や組合との協議が不誠実であったことを指摘して、「解雇権濫用法理の類推適用される実態と同様の状態」であると認め、中野区の責任を厳しく指摘しています。
 この高裁判決は、特別職の非常勤職員について「公法上の任用関係」であるとして、「雇用契約」としては認めないという不十分さはあるものの、更新を繰り返して継続して長期に働いている非常勤職員の「雇い止め」阻止の闘いと市場化攻撃など自治体リストラとの闘いにとって積極的な意義を持つものです。
 しかし、自治体当局はこの高裁判決を活かして職務の継続のために非常勤職員の「雇用安定」を図るのではなく、逆に長期に雇用継続をしていると「雇い止め」ができなくなるとして、更新についての厳格な運用と「更新回数限度」を設定する動きが現れています。
A  非常勤職員の雇用安定と処遇改善の流れを否定する都区政課から特別区あての文書
 07年10月19日に、東京都総務局行政部区政課長名で各特別区人事担当課長あてに、「非常勤職員の任用及び勤務条件について」と題する文書が発せられ、同日に開催された特別区人事担当課長会に区政課長が出席し、この文書についての説明を行っています。この文書は、いくつかの区で実施している非常勤職員の経験を考慮した報酬設定などの処遇改善を「継続雇用を前提とした制度」であり、特別職非常勤職員の法の趣旨に反していると指摘し、非常勤職員の雇用安定や処遇改善の要求を否定し、特別区の労使交渉に介入するものとなっています。
B  雇用対策法改正を理由として、「専務的非常勤職員」に「更新回数4回限度」を設定した東京都
 東京都は、07年12月6日付で雇用対策法の改正(募集・採用における年齢制限の禁止)をおもな理由に、「更新回数の4回限度(5年有期雇用)」を設定する「専務的非常勤職員設置要綱」を策定しました。当該非常勤職員を組織している東京公務公共一般労組に対しては説明や協議もないまま実施しました。
東京都の専務的非常勤職員は、これまで本人が希望すれば所定の勤務評価のうえで65歳の定年年齢まで更新できていたものを、再応募が可能であるとはいうものの「4回更新5年限度」を導入することは「雇用安定」を脅かすものです。
 「雇用の安定化」「待遇改善」を求め、不安定な雇用をなくし、正規化していくことが重要となります。

2. 特別職非常勤職員の任用根拠にかかわる問題と闘いの到達点
@ 地公法3条3項3号を任用根拠とする法的問題
@. 地公法3条は、地方公務員の職を一般職と特別職に分け、特別職とする職を定めている条項です。その3項で特別職の職を列記しており、3号は「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」と記されており、いわゆる3条3項3号適用の非常勤職員は、これにもとづく任用であるとされています。
A. 特別職非常勤職員については、「3条3項に掲げる職員の職は、恒久的でない職または常時勤務することを必要としない職であり、かつ、職業的公務員の職でない点において、一般職に属する職と異なるものと解される。」(昭35.7.28 自治丁公発第9号 茨城県人事委員会事務局長あて公務員課長回答)と解釈され、また、特別職については「地方公共団体の事務にもっぱら従事するのではなく特定の知識、経験に基づき、随時、地方公共団体の行政に参画するものまたは他に生業を有することを前提として、一定の場合に限り地方公共団体の業務を行うものの職をいう」(「逐条地方公務員法」鹿児島重治 学陽書房) とされています。
B. 上記の地公法3条3項3号の法解釈からすれば、本来、正規職員が担うべき恒常的で継続性が求められる職に特別職非常勤職員を充てることそのものが、法的に疑義があるものです。
 しかし多くの自治体では、自治体リストラや定数削減攻撃の圧力のもとで、自治体業務の遂行の必要上、正規職員が担うべき職に非常勤職員を充て、自治体当局も法的には疑義があることを承知の上で、他に位置づけるべき条項がないことから3条3項3号に任用根拠を求めているといえます。そのために、特別職非常勤職員に従事させている職務の行政上求められる継続性・専門性と法の趣旨とのギャップが存在しているのであり、その責任は自治体当局にあります。
A 特別職非常勤職員の雇用安定と処遇改善をめざす闘いの到達点
@. 前記のとおり、特別職非常勤職員は、地公法における任用根拠の法的問題を指摘しつつも、現に地公法3条3項3号を任用根拠とする特別職非常勤職員であることから、任期を1年とする任用(有期雇用契約)形態となっています。
 そのうえで、「それぞれの自治体において一定基準のもとに、更新手続きを行い、更新の結果として従事する職にふさわしい報酬を設定する」という制度は、非常勤職員が従事している職の継続性・専門性という行政上の必要性と非常勤職員の行政への貢献に応える制度(システム)として、現行法の許容範囲であると考えています。現行法のなかで安定雇用と均等待遇を実現していくために、労使間で努力を積み上げた結果としての、当然な処遇改善範囲に含まれるものです。
A. こうした立場を踏まえての粘り強い闘いの到達点として、今回の改悪前の東京都専務的非常勤職員をはじめ多くの特別区で、本人が希望し一定の勤務評価などの基準を満たせば定められた年齢まで更新ができるという制度が確立しています。このなかには、「要綱」上では「更新回数限度」が定められてはいるが、労使確認により実態として一定年齢まで更新可能となっている区もあります。
 また、いくつかの特別区では非常勤職員の勤務実績と働く意欲に応えるために、勤務実績を評価した「報酬設定」(経験加算制度)をおこなっています。
 さらに、公務職場は適用除外になっている「育児・介護休業法」に基づく育児休業について、更新を前提に「1歳半」まで認めさせている区もあります。
3. 新たな「有期雇用契約」の徹底をはかる攻撃に対する反撃の論拠
@ 特別職非常勤職員には、労働基準法が適用され就業規則の届出義務があり、労働条件の不利益変更には労使合意が必要
@. 地公法58条(他の法律の適用除外)で、特別職非常勤職員には労働基準法・労働組合法が適用されることが明らかとなっており、「非常勤設置要綱」を就業規則として定め、労働基準監督署に届けなければなりません(改定の場合も同様)。また、届出にあたっては、労働者代表(この場合は特別職非常勤職員のみ該当し、一般職は対象とならない)からの意見書を添付しなければなりません。
A. 就業規則(設置要綱)の変更にあたっては、当該非常勤職員・労働組合との協議・意見聴取が必要であり、変更内容が労働者に不利益に当たる場合は当該労働組合の合意が必要です。「要綱」に新たに「更新回数限度」を設定することは、この不利益変更にあたり当該労働組合の合意が必要です。
B. 東京都や特別区の大半が、特別職非常勤職員の就業規則を作成して監督署に届けておらず、就業規則に準ずるとされている設置要綱も、ほとんどが内容的には就業規則として不十分なものです。
 新たな状況を踏まえて、労働基準法・労働組合法等を全面的に活用して闘うためにも、あらためて就業規則作成・届出の取り組みの強化が必要となっています。
A 労働基準法14条2項(有期労働契約)にもとづく告示・通知の積極的活用
@. 有期労働契約の期間を3年に改悪した労働基準法改悪の施行にあたって、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(厚生労働省告示第357号 平成15年10月22日 以下「基準」と略す)及び「労働基準法一部を改正する法律の施行について」(平成15年10月22日 基発第1022001 都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知 以下「通知」と略す)が発せられています。
 前述しているように、地公法58条(他の法律の適用除外)2項で、労働基準法14条2項(この規定にもとづく告示等を含む)は「一般職の職員」には適用しないと明記されており、逆に特別職非常勤職員には適用されることが地公法上も明らかです。
A. 「通知」では、「有期雇用契約の場合、『更新の有無』及び『判断の基準』が当該労働契約の一部となっている場合には、その変更には当該労働者の同意を要するものであること。」と明記されており、特別職非常勤職員が「要綱」や「労使確認」により、一定年令まで「更新可能」であったものを「更新回数限度」を設定するという変更は、明らかにこの「通知」に該当するもので「本人の同意」が必要であり、つまりは当該非常勤職員に組合員がいれば労働組合の同意が必要となります。
B. 特別職非常勤職員は、どこの自治体でも「一年の任用期間(契約期間)」とし、そのうえで一定の基準にもとづき「更新が可能」と定められています。この「更新基準」のうえに、さらに「更新回数限度」という基準を設けることは労働基準法14条2項と告示等に違反するものです。
 さらに、「基準」の4条では、「使用者は、有期労働契約(当該契約を一回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。」と明記されており、更新を繰り返して4回で終わりだという「更新回数限度」の設定はこの趣旨にも反するものです。
B 雇用対策法改正(募集・採用における年齢制限の禁止)への対応を理由とした「更新回数限度」設定は認められない
@. 07年10月1日に施行された改正雇用対策法で、期間の定めのない労働契約以外の、有期雇用契約で募集・採用する場合に年齢制限を設けることが禁止となりました。
 東京都などは、雇用対策法改正により「設置要綱」から年令要件を削除する必要性を、「更新回数限度」導入の理由としています。
A. しかし、雇用対策法10条は、同法37条で地方公務員には適用除外となっています。ただ総務省から、雇用対策法改正の趣旨を踏まえ適切に対応するようにとの、「職員の募集及び採用における年齢制限に係る対応等について」(総行公第79号平成19年9月26日)の文書が各自治体あてに出されています。
 もし、当該法で適用除外になっている地方公務員についても、総務省の指導に従って雇用対策法の趣旨を踏まえるとして、特別職非常勤職員について有期雇用契約ということで、「要綱改正」を行うのであれば、特別職非常勤職員の雇用・労働条件について「任用」ではなく「雇用契約」として扱うべきです。
B. また、「募集・採用における年齢制限の禁止」と「更新回数限度」の導入とは全く別の問題です。「更新回数限度」の導入に対しては、前記の労基法14条を活用して闘うことが重要です。

4. 「更新回数限度」の導入・徹底を許さず、安定雇用と均等待遇にもとづく処遇改善をめざす当面の取組
 今日、「貧困と格差の拡大」が社会的問題となり、その主要な要因の一つとして劣悪な労働条件におかれている非正規労働者の増大があげられています。さらに、自治体に働く非正規職員は、地方公務員法と労働基準法・パート労働法などとの法の狭間におかれ無権利で劣悪な状況にあることがマスコミ等で取り上げられ始めました。
 さらに、各地方の春闘共闘などが進めている自治体キャラバン等で、自治体に働く非正規職員の賃金水準が地域の地場賃金よりも低く、地域の賃金水準を引き下げ、自治体が「ワーキングプア」を作り出している実態が明らかになり、自治体非正規職員の賃金・処遇改善が民間労働者を含む全労働者的課題となってきました。
 一方、非正規職員は雇用不安と劣悪な労働条件解消をめざして、各地の自治体で労働組合に加入し法的不備に苦慮しながらも、一歩一歩、「安定雇用」と「均等待遇」を求めて処遇改善を勝ち取ってきています。
 このような社会的動向に逆行し、非正規職員の運動と成果を後退させようとする新たな攻撃に対して、非正規・正規労働者の共同と民間労働者を含む全労働者の闘いとし、さらに「雇用安定」「均等待遇」実現をめざす攻勢的な運動として発展させることを基本として以下の取り組みをすすめます。
1) 新たに「更新回数限度」を導入する攻撃に対しては、東京自治労連として非正規労働者の「雇用安定」に逆流する攻撃として位置づけ、当該単組を中心に「導入阻止」の闘いに総力をあげます。地域労連の支援を要請します。
2) 「更新回数限度」が設定され「雇い止め」が発生する自治体においては、これまでの「雇い止め」阻止の闘いの教訓を踏まえて闘うとともに、この方針で提起した新たな論点を活用し、あらゆる闘争戦術を行使して雇用を守り、実質的な「更新回数限度」を突破する闘いを進めます。
3) 新たな攻撃に対する守りの闘いにせず、今日、08春闘をはじめ全労働者的、社会的課題となっている非正規労働者の「雇用安定」と「均等待遇」実現など抜本的処遇改善をめざす要求闘争を攻勢的に旺盛に進めます。
4) 東京春闘共闘の自治体キャラバンで、この問題を要請課題として取り上げるよう要請していきす。
5) 特別職非常勤職員をめぐる問題の根本的解決のためには、 恒常的・継続的な業務に従事している特別職非常勤職員の地公法における法的位置づけの整備が必要です。「中野区非常勤保育士解雇事件」での東京高裁判決(11月28日判決)で、非常勤職員の雇用安定のための「法整備が必要」と述べていることも踏まえ、任期の定めのない、均等待遇処遇による「一般職短時間公務員制度」の法的確立を求める運動の強化を、自治労連本部に要請していきます。
6) 交渉組織である都庁職・特区連と連携し、自治体労働者(正規・非正規)の労働条件の改善に取り組みます。