不払い残業撲滅・長時間労働解消へ向けた
特別区における実効ある36協定の締結をめざす対応の方向について
2008年2月20日
東京自治労連中央執行委員会
1 特別区各区における36協定締結提案の動き
 1月以降、各区当局から労働基準法第36条に基づく「時間外・休日勤務協定」(以下、36協定という)を新たに締結したいという提案の動きが現れています。
 特別区人事委員会が、今年度中の36協定締結を指導していることを受けたものであり、東京都において既に36協定が実施されていることなどを踏まえたものといえます。

2 蔓延する長時間労働・不払い残業
 自治体の職場では、長時間労働と不払い残業が蔓延している状況です。
 A区の(常勤職員数2500名規模)事例では、過労死認定基準に達する「月100時間超」の超過勤務者が年間54件(実人員30名)に達しており、こうした状況は全都的な実態です。
 また、先に実施した「2007年健康アンケート」結果では、「サービス残業や不払い残業がある」と回答した組合員が、実に40.8%に達する異常な事態に至っています。
 こうした状況は、総定数抑制方針に基づく定数削減、予算抑制などを背景にしたものであり、当局によってつくりだされたものにほかなりません。
 さらに、不払い残業問題をめぐっては、自治労連都庁職組合員が06年6月23日付で不払いとなっている超過勤務手当の支払いを求めた措置要求に対して、東京都人事委員会が「命令権者の命令なしに、自らの判断に基づき勤務時間外の勤務をしていた」として、要求を「却下」とする判断を下すなど、極めて不当な問題が生じています。
 
3 「36協定」とは何か
 法定労働時間を超えて勤務する場合は、時間外勤務となりますが、法定労働時間は、守るべき労働条件の基本であり、その例外である時間外勤務・休日勤務は限定的に認められるものです。
 具体的には、労働基準法第36条の時間外・休日勤務協定として、労使間で書面協定を締結し、人事委員会又は所轄労働基準監督署長に届け出ることではじめて認められるものです。
 また、無制限に時間外勤務・休日勤務が認められるものではなく、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年労働省告示第154号)」に基づいて、「1ヶ月45時間」などの限度時間が定められています。
 さらに、育児又は家族介護を行う職員が請求した場合、1ヶ月24時間、1年について150時間を超えて勤務時間延長をさせてはならないこととされています。(育児・休業法第52条)

4 公務職場における36協定の制度的問題
(1) 旧16号以外の職場では36協定なしには残業を命じられない
 公務職場の場合、「公務のための臨時の必要があることを要件として時間外勤務・休日勤務を命ずることができる。(労基法33条3項)」とされていることから、36協定締結無しに時間外勤務・休日勤務が生じている現状にあります。
 しかし、労働基準法適用の基本となる「労働基準法に基づく事業の区分」における別表第一の1号から15号に該当する職場については、法制度上、36協定締結無しに時間外勤務・休日勤務は行えません。(非常災害などの特別な事情が生じた場合は、人事委員会又は所轄労働基準監督署長の事前許可又は事後届出を要件。)
 特別区の場合、特別区人事委員会が「労基法による特別区の事業場の区分」として、1号・3号・12号・13号・14号・15号の区分に児童館・保育園・図書館・給食調理場・土木事務所・保健所をはじめとする特別区の事業場を区分しています。(別表参照)
 したがって、これらの事業所については、36協定締結無しに時間外勤務・休日勤務は本来行えないこととなり、現状は労基法違反の状態といえます。

(2)

特別区人事委員会の労働基準法事業場区分の問題点
 「労働基準法別表第一に掲げる事業以外の官公署の事業場」(以下、旧16号事業所という)については、36協定締結無しに、「公務のための臨時の必要があることを要件として時間外勤務・休日勤務を命ずることができる。」とされています。
 特別区人事委員会の「労基法による特別区の事業場の区分」では、旧16号事業所への割り振り事業所数が多いことが指摘できます。
 土木事務所及び公園管理事務所について、現場作業を行わない職員について、旧16号事業所に区分していますが、この点などは政府見解に反するものです。
 1999年4月17日参議院地方行政委員会において、「土木事務所とか試験場で働いている地方公務員は、現場作業従事者はもちろんのこと、デスクワークをしている人についても労基法36条の適用を受けるのではないか?」との諌山博議員の質問に対して、政府(労働省労働時間課長)は、「労働基準法は事業所を単位として適用されており、労基法適用があるということ。」と回答しており、明確な政府見解違反です。

(3)

「公務のための臨時の必要がある場合」問題:旧16号事業所も協定締結対象
 労基法33条3項の規定を根拠として、東京都をはじめとする36協定締結自治体においても旧16号事業所は対象外とされ、これらの職場における長時間残業が野放しの状態とされています。
 労基法33条3項の規定は、「公務のために臨時の必要がある場合」には、36協定無しに時間外・休日労働を命じることができるというものです。
 しかし、職場における時間外労働は、その大部分が「恒常的な必要性に基づく時間外労働」であって、「臨時」の必要に基づくものではありません。
 「行政実例・時間外勤務と労働基準法第36条の協定(昭和27年10月2日付)」において、兵庫県人事委員会事務局長の「地公法58条2項によって、一般地方公務員の時間外労働には労働基準法36条の協定は、必要ないと解してよいか。」との問いに対して、「労働基準法33条の規定に該当する場合を除き、設問の協定を要するものと解する。」と回答しています。
 1999年4月17日の参議院地方行政委員会の質疑においても、政府(自治省公務員部長)は「この実例につきましては、変更はいたしておりません。」と答弁しています。(第123回国会参議院地方行政委員会会議録第4号)
 したがって、「公務のための臨時の必要」が無い場合は、全ての自治体職場において36協定締結が必要となります。
 なお、「臨時」の解釈については、「逐条地方公務員法 鹿児島重治著」において、「たとえば、災害の発生、予算・決算の作成、臨時の調査など一時的な事務の繁忙に対処すべき必然性がある場合であり、漫然と時間外勤務を命ずべきでないことはいうまでもない。」としています。

5 東京都等における36協定と職場状況
 東京都庁における36協定締結問題については、1996年8月から労使協議が積み重ねられ、難航しましたが、2000年3月30日に「大綱妥結」に至り、細目について同年4月27日に最終合意、2000年6月30日に協定を所轄行政官庁へ届出、7月1日付で発効しました。
 都庁においては、旧16号事業所が36協定締結対象から除外されています。このため、全庁的な超過勤務縮減への対応として、「超勤縮減対策委員会」を労使協議の場として設けています。
 しかし、本庁職場の長時間労働は蔓延している実態があり、都庁職は、引き続き、旧16号職場を含む全ての職場を36協定締結職場とすること、当面、超勤縮減委員会を各支部・分会単位で設置することを求めています。
 協定締結単位は法制度の趣旨から事業所単位となるものであり、都上下水道局においても事業所ごとの協定となっています。
 しかし、都庁(知事部局)については、「時間外労働に関する覚書」と「事業所において締結する協定の基本(基本協定という)」が締結され、「覚書」の中で、「基本協定に定める内容の範囲内で、事業所ごとにおける協定(個別協定という)を締結することができる。」として、事業所ごとの協定が期限までに合意に達しない場合は、「基本協定をもって、所轄行政官庁へ届け出るものとする。」とされていました。
 都庁職の要求闘争の中で、2006年6月12日付の一部改正で、この点は削除されましたが、6年間の運用と基本協定の存在の中で、現在においても、実効ある事業所ごとの協定締結に弊害を持ち込むものとなっています。
 都庁職は、引き続き、各局・支部間や分会での協議を保障し、到達点を尊重することを要求しています。
 民間企業においては、36協定締結内容が、協定時間を根拠とした長時間労働の強要や、協定時間を超える時間外労働を不払い残業として生じさせるなど、長時間過重労働・不払い残業・過労死の要因ともなっており、真の長時間労働縮減へ向けた実効ある36協定締結は重要な課題となっています。

6 実効ある36協定締結へ向けた基本的な考え方
(1) 実効ある36協定締結をめざす
 基本的には、法制度上、36協定締結無しに超過勤務はできません。しかし、安易な36協定締結では、不払い残業の増加や超過勤務強要の事態を招くこととなります。
 したがって、以下を踏まえて、不払い残業・過重労働の根絶へ向けた実効ある36協定締結をめざすものです。

(2)

組織強化の視点で36協定の取り組みを進める
 時間外労働・休日勤務の問題は、全ての職員にとって最も身近な課題です。
 個々の職場・個々の組合員の業務状況の把握なくして実効ある協定締結はできないことから、より職場・組合員の要求を踏まえた労働組合活動としていく取り組みとして位置付けていくものです。
 また、36協定締結に関わる協議は、「適法な交渉」であり、勤務時間内に有給で労使交渉を行う課題となります。
 この問題では、支部・分会段階での定期的な労使交渉が必要であり、時間内組合活動が見直された中で、この課題を有効に活用して、支部・分会の日常活動を強化していくものです。

(3)

36協定締結に関わる具体的な対応
@ 協定事業所範囲は全職場とすること〜例外を認めない
 旧16号事業所を含めて、全ての職場を36協定締結の対象とします。
A 協定単位は小規模とすること
 職場の具体的な業務内容と執行体制に基づいて必要な超過勤務時間数は生じるものです。したがって、協定締結職場の単位を小さくしなければ目が行き届かず、実効ある協定となりません。
 同時に、課単位や事業所単位に実効ある協定締結と超過勤務縮減の協議が行えるように、職場組織の確立・強化を進めていきます。
B 現時点で限度時間を超えている職場について、協定導入前に定数増など超過勤務縮減対策を措置すること。
 現状において、労働省告示第154号に定める限度時間数を超えた超過勤務実態が存在する中で、この問題の解決無しには協定締結は行えません。定数増、業務見直しなど、必要な措置をあらかじめ実施することは最低限の条件となります。
C 協定締結目的として過重労働対策を労使確認する 
 36協定締結に関わる協議は、実効ある超過勤務時間縮減対策の協議と切り離すことはできません。したがって、過重労働対策を36協定締結目的として労使確認を行い、超過勤務時間縮減対策委員会の設置など、定期的かつ実効ある労使協議の場を確保します。
D 締結時間数及び事由についての十分な職場討議
 具体的な締結時間数や時間外勤務事由については、職場実態を十分踏まえて設定することが必要であり、この問題での職場討議を重視します。
E 実態把握のシステム確立
 36協定締結内容の実効性を確保するとともに、不払い残業を防止するために、職員の超過勤務時間数及び事由について日常的に把握できるシステムが必要です。
 定期的な当局からの情報提供はもとより、不払い残業防止を目的とした組合員アンケートの定期実施など必要な対応を行います。

(4)

超過勤務時間数に対する基本的な考え方
@ 超過勤務時間数に対する要求の基本
 労働基準法は、1987年に週40時間勤務制となり、猶予期間を経て完全週休二日制が導入されました。これによって、年間所定労働時間数は約1950時間となり、年間20日の有給休暇取得によって年間1800時間労働となります。
 したがって、年間1800時間労働は時間外勤務ゼロを前提としており、国際的にも日本の長時間労働は異常な事態といえます。
 しかし、現実を踏まえる中で、自治労連は時間外勤務時間数について、以下の要求を確立しています。ア)年間150時間(年次有給休暇付与時間数相当)、イ)1ヶ月20時間(1日1時間相当)、ウ)週5時間(1日1時間相当)、エ)1日2時間。
A 「過労死」防止に不可欠な実超過勤務時間数の月45時間以内厳守
 「過労死」は大きな社会問題となっており、無数の裁判闘争をはじめとして、労働者・労働組合の運動は粘り強く進められてきました。
 こうした中で、平成13年12月12日付「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(以下「新認定基準」という。)により、脳・心臓疾患の労災認定基準が改正され、業務災害の認定に当たって、疲労の蓄積をもたらす長期間の過重業務も、業務による明らかな過重負荷として考慮することとされました。
 新認定基準の考え方の基礎となった医学的検討結果によると、長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ、その結果、血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させるとの観点から、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間の評価の目安が次のとおり示されています。
ア)発症前1か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる。
イ)発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと判断されること
 この考え方に基づき、過重労働による労働者の健康障害を防止することを目的として、平成14年2月12日付で、厚生労働省より、「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」(以下、厚生労働省通知という)が通知されたものです。
 したがって、「公務のための臨時の必要がある場合」を含めても、1ヶ月に最大で45時間以内に超過勤務を抑制しなければ職員の健康を守ることはできません。
 この課題を原則として、実効ある対応確立を進めるものです。

(5)

各単組における対応について
@ 各単組は、当局から職員の超過勤務時間数に関わる情報提供を受けるとともに、不払い残業実態を把握するための組合員アンケートを実施するなど、36協定締結前の超過勤務実態調査を行います。
A 本方針を踏まえて、対応方針案を策定し、全ての職場において職場討議を進めます。
B 調査結果と対応方針を踏まえて、実効ある協定とするための要求書を策定し、労使協議を進めます。(職場体制整備、協定単位、時間数と要件、締結後の見直し協議ルール、過重労働対策協議ルールなど)
C 36協定締結を視野に入れた職場組織の確立・強化を進めます。
以上