第5回東京地方自治研究集会基調報告

第5回東京地方自治研究集会事務局長 

 堤   敬


1 はじめに
  プロ野球の近鉄とダイエーの統合問題に端を発した渡辺ジャイアンツオーナーの「たかが野球選手」発言は、財界人の国民や労働者に対する態度をわかりやすく示しています。8月10日新宿駅頭で東京土建と東京自治労連が共同して、労働組合日本プロ野球選手会の署名を行いました。一時間に260筆の署名と、1900枚のビラを配ることができました。机を出す間もなく署名する人の行列ができました。マスコミで毎日報道していたプロ野球問題については、何らかの意思表示をしたいとの思いで、多くの方が足を止めて署名に応じていました。11月10日の都内六駅頭の宣伝で新潟中越地震の被災者カンパを訴えたところ一時間で六万円余のカンパも寄せられました。都民は関心を持っていることには積極的に行動に出て、私たちの提起に応えて一緒に運動ができることを示しています。
 私たちは「憲法が危ない」「地方自治が危ない」という今日の事態を、より多くの都民にまず知らせる必要があります。地方自治の意味を改めて確認し、「地方自治を守れ」の声を多数派にし、住民本位の地方自治の確立をめざして、お互い努力して一歩づつ進めようではありませんか。
  本、第5回東京地方自治研究集会では、具体的には次の3点を目標とし取り組んでいます。
  (1) 政府、都・区・市の施策が住民生活にどんな影響、困難をもたらしているかを明らかにします。
  (2) さまざまな立場の多くの人がつどい住民・都民団体の要求と取り組みを交流しあう場とします。
  (3) 自治体本来の行政のあり方を明らかにし、互いに激励しあいながら、「住民こそ主人公」の自治体づくりをめざします。

2 住民本位の自治体づくりをめざして
  住民本位の自治体づくりは、主人公である住民と自治体労働者とが共同して作り上げるものです。住民は、自らの要求を組織し実現するために行政に働きかけることが必要です。
 自治体労働者は、労働者としての性格とともに、憲法にうたわれている住民全体の奉仕者としての役割をあわせ持っています。自治体労働者は、自らの仕事を業務として行うだけではなく、住民本位の自治体づくりをすすめる責務を負っています。自治体行政を自らの手で進めていく上で、「住民本位の仕事をしたい」と視点を前向きにすえ、仕事の分析を進め検証していく、さらに発展方向を追求する姿勢が求められています。
 地域の労働者・中小零細企業の経営者、農家など、さらに子どもから高齢者まで、広範な住民とともに自治体のあり方を現場に即して調査研究し、お互いに交流しながら励ましあって運動を進めることが重要です。

3 これまでの取り組み
  自治労連は、「こんな地域と日本をつくりたい」を合い言葉に全国各地でさまざまな運動を進めてきました。2003年に千葉で第6回地方自治研究全国集会が開催されました。その特徴は、「市町村合併の可否は住民投票で」に表れています。住民投票条例の制定に当たっては、多くの自治体で自治体労働者が住民と手をつないで、積極的に運動を進めてきました。
 区市においても、地道なまちの調査活動などを通じて、多くの区民の協賛を得た結果実現した足立吉田民主区政、多摩市での市立幼稚園を守れの運動、江東の商店街組合と共同した取り組みや、各地域で地域自治研集会や職場自治研集会が開催されるなど多くの実績をあげてきています。
 東京では、不況に苦しむ都民を直撃する石原都政に対して、さまざまな分野で広範な都民と手をつないで運動を進めています。開催中の第5回東京自治研集会では、母子保健院の廃止を阻止する闘いや、保育の民間委託反対の闘い、都立病院の民営化、圏央道の環境破壊に対する闘いなど福祉・教育・医療・環境を守る運動をそれぞれの分科会などで交流をしてきています。

4 自治体を取り巻く情勢
 (1) 米一国覇権主義と従属する小泉政権
   アメリカ政府がしかけたイラク戦争は、大義のない侵略戦争であることが明白になりました。
 すでに一般市民の100,000名以上が犠牲になり、占領軍のイラク国民への数々の虐殺・虐待行為は世界中の人々から非難を受け、一国覇権主義のブッシュ政権のもくろみは破綻しています。
 小泉政権は、平和を願う国民の声を無視して自衛隊派兵を強行し、さらに政府自ら憲法上できないとしていた「多国籍軍への参加」を閣議決定し、戦闘地域への自衛隊派遣を継続し、アメリカに追随し続けています。

 (2) 「戦争する体制へ」
   国民の不安や反対を押し切って、周辺事態法、テロ特措法、有事法制、イラク特措法と日本を戦争の当事者に導く悪法が成立しています。特に、2003年6月に成立した有事法制は自治体や国民を戦争に巻き込むものです。このような流れは、憲法第9条を焦点とする「改正」の動きを強め、自民党は2004年11月改憲大綱原案をまとめました。民主党も同様に「創憲」を打ち出しています。「戦争する体制へ」の流れは、多くのマスコミを動員し国民の世論づくりを意図的に進めています。東京では、石原都政のもとで憲法否定の発言や福祉切り捨てなど国の動きを先取りする事態が起こっています。特に、都内の教育現場では「日の丸」「君が代」の押しつけを行い、従わない教育労働者には処分をし、研修の名の下にまさに思想転向を迫るなど教育の管理統制を強めています。都はすべての国民に「日の丸」「君が代」を押しつける地ならしを行っているもので認めるわけにはいきません。

 (3) 国家財政の破綻を「構造改革」の名の下に国民に転嫁し、犠牲を強要する新自由主義
   小泉「構造改革」がすすめる「市場原理万能」の新自由主義的「改革」は、巨大資本のグローバル化を後押しし利益をふやす政策と「巨大な財政赤字」を国民に転嫁することを一体的に追及しようとするものです。
 「構造改革」は、金融・産業・労働法制・商業・農業など大企業の利潤追求にとって障害となるあらゆる「規制」を剥ぎ取る「規制緩和」と法人税の減税と消費税増税など「税制改正」、年金・医療分野で給付の削減・負担の拡大を押し付ける「社会保障制度の解体」、「官から民へ」のスローガンのもと国や自治体の公的責任を放棄する「国や自治体業務の市場へ開放」を国民に押し付けてきています。
 その結果として、日本の多国籍企業は、史上最大の利益を上げ富裕層はさらに富を蓄え続けています。一方で、リストラによる所帯主の失業や青年の就職難、フリーターに代表されるように、年収300万以下のパート・臨時・非常勤の低賃金労働者が1,200万人をこえ就業者全体の30%にも達しています。

 (4) 自治体財政を圧迫する財源なき地方分権から、さらに「三位一体」改革へ
   2000年の地方分権改革では、財源を国に残したまま、自治体に権限や事業が委譲されました。緊迫した財政運営を強いられる自治体は、住民に負担を求めようとしています。さらに、2004年度には「三位一体」改革の暫定処置として補助金の一部廃止、所得譲与税の新設、地方交付税の削減などの措置が行われました。
 この影響で、今年9月厚生労働省の調査では、公立保育所運営費減少を理由に、保育材料のコスト削減、公立保育所の民営化、全国の約一割の市町村で保育料の引き上げが行われて国民の生活を直撃しています。
 その後、住民税のフラット化をはじめとする「三位一体」改革の骨子が提案されています。
 国の「三位一体」改革に対して2004年8月24日地方六団体は(知事会、都道府県議会議長会など)国庫補助負担金等に関する「改革案」を発表しました。11月17日には日本武道館で決起集会が開催されました。私たちは自治体財政の確立の視点から国に対し責任を果たさせるとともに、民主的税財政制度の確立に向け運動を進め、力関係を変えるとともに、住民の生命・財産を守り生活を向上させる自治体としての役割を果たすための取り組みを強める必要があります。

 (5) 大都市問題や都道府県合併のうごき
   第27次地方制度調査会は、合併特例債の発行許可期限をつけて、市町村合併をさらに促進するように答申しました。大都市問題や都道府県の合併については、第28次地方制度調査会にゆだねました。第28次地方制度調査会は、都道府県の合併による道州制への移行を検討しています。諮問事項から見ると、国の出先機関の統合による新たな道州の役割として、基礎自治体への管理統制機能の強化の様相がみうけられます。

 (6) 自治体職員を変質させる動き
   ニューパブリックマネージメント(NPM)と称して、「市場原理万能」主義による自治体に対する攻撃が始まっています。民間委託、指定管理者制度、NPO、現業職の縮小廃止、認証保育所などさまざまな形で住民生活への攻撃が始まっています。また、業績評価、目標管理制度、役所の組織の事業部制、電子自治体化など自治体職員への思想攻撃と一体となって進められています。
 小泉首相の私的諮問機関として、「規制改革・民間開放推進会議」は、2004年8月3日、「中間のまとめ―――官製市場の民間開放による『民主導の経済社会の実現』」を発表しました。「規制改革・民間開放は、官民の役割分担についての既成概念を根底から見直すことにより、利用者・消費者である国民に対して、付加価値の高いサービス等を提供するために最適な経済社会システムの実現をめざすものである」としています。「民間でできるものは官はおこなわない」その具体策として、PFIや指定管理者・構造改革特区を総合的にして、官と民とが同等で入札し、落札した方が事業を実施する「市場化テスト(官民競争入札制度)」の導入を示唆しています。「官業の民間開放の推進」として、「『公権力の行使』は民間に授権すれば、公務員が行わなくてもいい」と憲法違反の暴論が出てきています。
 この点からも、はっきりと自治体・自治体労働者の役割を明確にする必要があります。
 中野区における指定管理者制度による保育園の委託に伴い非常勤保育士の解雇が行われ職場復帰をめざした闘い。学校給食の民間委託化を阻止しようと地域に出かけて親子クッキングスクールやまちの人たちに学校給食の味をまず知ってもらう取り組み。子どもたちの給食を利潤追求の場所にしないで」と給食まつりの開催や、子どもたちの実態を知ろうと「保育の実態調査」など保護者や都民と連携して反撃が行われています。

5 東京都や区市町村の状況
  石原都政は、「東京構想2000」を具体的に進めるために、2次にわたる「都庁改革アクションプラン」に基づいて都民犠牲の都政リストラを進めています。
 都立大学では大学の自治を無視し、学生、教職員、大学関係者の反対を押し切って都立大学の廃止と「首都大学東京」の設置へと財界の要請する大学の姿への変質を迫っています。
2004年度は「第二次財政再建推進プラン」の初年度として、巨大な財源不足を理由としたリストラを進めています。しかし、この「財政危機論」は、「都市再生」と称する大企業本位の大規模開発のための財源を確保するため、都民施策の切捨てや職員犠牲の都政リストラ推進の口実にすぎません。
 04年度の三位一体改革で国庫補助金が削減され、併せて都の補助金も削減しました。地方交付税不交付団体のため、地方交付税へ影響をまったく受けず、所得譲与税による増収が204億円計上されるにも関わらず、区市町村に措置をしていません。
 特別区政度調査会は、2006年都区制度改革の見直しのために、2003年設置されました。「分権時代における『都制度』と基礎的自治体としての『特別区』の検証」、「個々の区の『自律性』『自立性』と広域行政のあり方」「新しい大都市自治制度モデルの提示」など住民不在の検討を進めています。

6 住民主体の自治体・自治体労働者とは
  地方自治法で、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」としています。自治体に働く労働者は、自治体の役割を実現するため、住民主体の自治体づくりをすすめる役割があります。この原則を正規、非常勤、パート、関連の職場で働く全ての公務公共労働者の共有の原則として再度確認しておく必要があります。

 1) 自治体の役割
  (1) 平等性・公平性
 住民は主権者として平等に自治体の施策を受ける権利があります。基本的に所得の違いによって住民の生活に必要な施策が質的に変えられたり、権利が制限されたりすることがあれば、人間としての生活が平等に保障されないこととなります。
 また、当然、事業や行政の執行は公平に行われなければ住民は、安心して生活が送れません。

  (2) 継続性・安定性
 住民は継続的・安定的に自治体の施策を受ける権利があります。しかし、自治体と企業では目的が違うことから継続性・安定性で差がでます。企業活動の目的は経済的利益の確保であり、住民との矛盾が生じると企業は利用対象者の利益より企業の利益を優先します。その結果、住民に対する責任を放棄し、常に倒産や撤退の危険があり、福利を受ける住民の権利が安定的に保障されません。

  (3) 所得の再配分
 自治体には税や社会保障制度などを通じて、住民間にある所得格差を是正し、経済的平等を実現する役割があります。住民が主権者として人間らしく生活することを保障するためです。したがってそもそも効率性は民主的な効率性であり、自治体には事業目的との関係であえて収益性よりも公共性を重視した事業を展開する義務があります。

 2) 自治体労働者の役割
 自治体労働者として本質的に次のような特質があります。なお、臨時・非常勤職員も当然、これらの特質を有しています。自治体には役割分担や研修などによって特質が発揮される条件を整備する責任があります。

  (1) 専門性確保
 住民は専門的な知識を有した労働者によって自治体の施策を受ける権利があります。自治体労働の多くは住民とのコミュニケーションをとりながら課題を解決する労働であり、個別性に着目しながら一般的基準の中で住民の課題を解決する人間による人間のための労働です。憲法・法令や各基準・他の事業などに精通し、基本を踏まえた専門的で総合的な判断を求められます。
 自治体労働者は住民の発するメッセージを受け止め、専門的な知識や経験を発揮して意識的・系統的に生活の中で課題の解決や改善を図っていく専門的な労働です。

 (2) 裁量行為
 自治体職場の主人公は自治体労働者です。住民要求の多様性に的確・迅速に対応するためにはマニュアルではなく仕事を通じて蓄積された専門的判断に基づく裁量・現場の判断機能が必要です。
 なお、マニュアルには2つの側面があることを押えることが必要です。
 1つは基本的マニュアルを把握し、それに基づく技量の向上を追求することです。憲法・法律・条例・規則・安全基準・指導指針などがあり専門性を確保するためには必須のものです。つねに習得と熟練が求められています。
 もう1つは、マニュアル化を進行させると「自治体業務」の標準化を通じ「商品」化につながります。経費を削減するためにはマニュアルによる規制が行われ、人員や消耗品を中心に削減が行われます。また、市場化のためのマニュアルは自治体労働を単純労働化させます。住民要求の機械的否定や自治体業務の執行責任をマニュアルに押し付けることとなります。自治体労働者として自ら基本的知識を基にして考える姿勢が後退します。住民との接し方や住民の生活をマニュアルに合わせることとなり、さまざまに変化する行政需要に対応できないことはもとより住民の権利や生活を保障できません。

  (3) 職場からの政策提起
 住民の要求を踏まえ、自治体労働者の専門性を生かし積極的な政策提起を行うことが求められます。
 企業は利益をあげることが目的で、「公的目的」は2次的、3次的となります。企業自体が現場から出された住民のための政策提起を採算を度外視して行うことはありません。労働者も利益をあげることにつながらない要求は受け入れられず、職場での改善要求が困難になります。

  (4) 民主的効率性の確保
 地方公務員法は民主的で効率的な行政運営を保障するために制定されています(地方公務員法1条)。自治体労働者は主権者である住民の意思に基づいて効率的に自治体の業務を進めることが必要となっています。従って、日常的な業務の効率性の追求は住民要求や憲法・法令等に照らして行なうこととなります。

  (5) 労働条件の確保と意欲の継続
 自治体労働者が専門性を発揮しながら住民福祉の向上を図るためには、自治体労働者の「誠意」や「情熱」だけに頼ることはできません。そもそも労働者が安心して主体的に技能を向上させるためには健康で人間らしく働ける環境が必要です。自治体に働く労働者も平等に安定して住民に接するために、そして、自治体労働者の自主的・主体的な専門性向上やスキルアップ(訓練による技能向上)の意欲のためにも労働条件の確保が必要です。

7 第5回東京地方自治研究集会の目的と意義
  徴兵制の先兵となった戦前の自治体労働者の苦い経験を踏まえて「二度と赤紙を配るまい」、「住民の繁栄なくして、自治体労働者のしあわせなし」を合い言葉に住民本位の自治体をめざして自治体労働者は労働組合を結成しました。戦争直後発足した都職労の綱領で「吾等は、都政の徹底した民主化を期す」、と東京の自治体労働者は、戦後一貫して平和と民主的な社会を求めて運動を進めてきました。
 東京自治労連は、これらの歴史、運動、経験を踏まえ、地方自治研究活動にとりくんできました。
 今日、都や区市当局は、住民を「顧客」であると言い始めています。住民は主権者です。自治体は、主権者である住民と自治体職員が一緒になってつくるものであって、住民は決してお客ではありません。
 自治体労働者にとっては、住民要求を正面から受け止めて、職場で話し合い、住民の方々とも対等平等に議論し、要求から政策へと練り上げる立場が不可欠です。かつて、「ポストの数ほど保育所を」との大運動の中で保育園を増設、職員の配置し、保育内容と条件を拡充してきました。
 その運動の中で、「どれだけ多くの賛同を得られたのか、世論を喚起することができたのか、」についても点検する必要があります。住民本位の政策実現に向けて、小異を捨て大同につく運動を進めようではありませんか。
 第5回東京地方自治研究集会は、来年の東京都議会選挙をひかえて開催されます。「こんな東京をつくりたい―平和で安心して暮らせる豊かなまちを」をメインスローガンに、都内44団体で実行委員会をつくり準備してきました。20の分科会、3つの講座、4つのテーマ別集会、全体集会で構成されています。「都民本位の都政とは」、「人が住み生きるために自治体のあるべき姿とは」、これをあらゆる分野から具体的に検討・提言し、さらに運動を進め実現していこうではありませんか。