「規制改革・民間開放推進3カ年計画」の閣議決定に対する見解と態度
2005年6月8日
東京自治労連中央執行委員会

はじめに
昨年4月に「規制改革・民間開放推進会議」が発足しましたが、本年3月に民間開放に向けた「3か年計画」が閣議決定され、一つの節目を迎えました。
 東京自治労連は「自治体政策委員会」の名において、昨年8月の「中間とりまとめ」の批判を行いましたが、今回の閣議決定により全体像が明らかとなったので、中央執行委員会として、以下の通り見解と態度を明らかにします。

1.「規制改革・民間開放推進会議3か年計画(改定)閣議決定」(以下「改定閣議決定」は何を決めたのか。
  「改定閣議決定」は、その目的として、行政の各般の分野について民間開放その他の規制の在り方の改革の積極的かつ抜本的な推進を図り、経済社会の構造改革を一層加速することを挙げています。具体的には、生活者・消費者本位の経済社会システムの構築と経済の活性化を同時に実現する観点から、(1)経済活性化による持続的な経済成長の達成、(2)透明性が高く公正で信頼できる経済社会の実現、(3)多様な選択肢の確保された国民生活の実現、(4)国際的に開かれた経済社会の実現等を図るとしています。
 このことは、公務・公共サービスの民間開放や規制緩和を徹底することで「経済社会の構造改革を一層加速」し、企業の利潤獲得領域を拡大する「経済の活性化」をいかにして実現するかというところに「改定閣議決定」の目的があるといえます。
また、「規制改革を推進するための審議を行うとともに、本計画の実施状況の監視を行い、各改革事項の推進を図る」として、「推進会議」の意義を改めて強調する意思も示されています。

2.議会制民主主義を否定し、「推進会議」を優先させる意図
 「改定閣議決定」では、規制改革に関するあらゆる情報を「推進会議」に集中させるという意図を徹底させています。さらに、(1)情報を集中するだけでなく、あたかも戦前の「企画院」の如き絶大な権限を有する「超法規的」組織として位置づけています。さらに重要なことは、(2)「推進会議」のメンバーが財界、大企業の役職者であることから、財界、大企業の「意見」を最優先されることとなります。そしてそのことは、(3)「推進会議」の意思と便益を内閣府・首相官邸を発するかたちで政府諸機構を通じて実現することを意味している。以下に「改定閣議決定」の進め方を見てみます。
(1)(内閣府に設けられる)「規制改革・民間開放推進本部」(以下「推進本部」)は、「推進会議」の意見を最大限尊重して…「規制改革・民間開放に関する基本方針」を改定し、本部と会議が両輪となって規制改革を強力かつ着実に推進する」
(2)「内閣府は、本計画に定められた措置を積極的に推進するとともに、その実施状況に関するフォローアップを行うこととし、その結果は、「推進会議」に報告する」
(3)「構造改革特別区域推進本部と関連する諸組織との連携を今後とも密にする」
(4)「内閣府に寄せられる市場アクセスに係る苦情や、総務省に寄せられる規制改革に関するものについては、「推進会議」に随時情報提供する」、「「推進会議」と公正取引委員会は、密接な協力体制を維持する」
(5)「規制の新設・改廃時に、所管府省からその情報が「推進会議」に提供されるといった仕組みをつくる、…情報提供された規制案の中に、改革の方向性や理念に反すると認められるものがあった場合、「推進会議」は、所管府省に対して意見を述べる」

3.「改定閣議決定」はくらしと福祉を守る社会的規制を含めてことごとく取り払うことを求めている
 「改定閣議決定」は、「規制を一定期間経過後に廃止を含め見直す」、「規制の新設について、これを必要最小限にするとの基本的な方針の下に」、「市場機能をより発揮するための競争政策の積極的展開」を図る等と述べています。
 こうした記述から窺われるのは、規制の新設は厳しく「規制」するとともに、既存の規制についてもことごとく取り払い、市場の競争原理に委ねよという意図です。言うなれば、くらしや福祉、安全を保護・保全・確保するための最小限のルールを取り崩し、弱肉強食の競争原理を剥き出しに野放しにすることを意味します。
このことは、「「行政改革大綱」及び「今後の行政改革の方針」に基づいて、計画的・積極的に民営化、民間への事業譲渡、民間委託を推進」するとの記述と読み合わせるならば、憲法25条に規定される、生存権保障を含む国民の基本的人権を守るためのルール、あるいは働くものの雇用と労働を人間としての尊厳に相応しいものとするための最小限のルールそのものを壊してしまう意図が明らかとなります。
「改定閣議決定」は、国民のくらしと福祉、雇用の「向上及び増進」に対する国、自治体の責任と負担をなくし、企業のルールなき利潤獲得の領域を無限に拡大していく今日の小泉内閣の「経済社会の構造改革」の本質を浮き彫りにしています。

4.「改定閣議決定」等に示される自治体に係わる内容についての批判
(1)「公」概念について
はじめから、「民間開放・規制緩和」ありきで議論が進んでいるため、「公権力の行使」や「公務員」の概念についての検討は行っていません。つまり国・自治体が本来担うべき、国民や住民の生存権を含む基本的諸権利に対する責任と負担を投げ捨てようとしています。
また、民間委託や民営化、さらに「指定管理者制度」導入などこの間、「行政改革」・自治体リストラで強引に進めてきた「官業」(行政サービス)の民間開放・市場化の少数事例を逆手にとって、「『公権力の行使』に該当する行為であっても既に民間に開放されている事例は少なくない」と強弁しています。
 さらに、「制度の仕組みを変えることにより、『公権力の行使』の問題に立ち入ることなく民間開放を進めることができる」事例として介護保険を取り上げています。これは、「措置から契約へ」という今日の「社会福祉の基礎構造改革」により、福祉を国民の権利としてではなく、「商品」として取り扱う民間企業の儲けの場に明け渡すことを意味しています。
 そして、利潤を上げるためにサービス内容の低下や労働者に負担を強いるという実態が民間開放された分野で起きていることは無視しているのです。

(2)行政権の行使について
 「推進会議」は、「行政権の行使についてはその発動・結果に対して内閣が責任を負うという論理」について、「内閣が責任を負いうる措置を講ずるときは」「必ず公務員が遂行しなければならないということにはならない」と述べています。
しかし現実には、「内閣が責任を負いうる措置」さえも実践されていません。具体的には、今日の「措置から契約へ」に基づく「選択と自己責任」や健康や安全に関わる最低基準すら取り払う野放図な「規制改革」の横行によるBSE、鳥インフルエンザや薬害HIVへの国の対応や原発、大手自動車メーカーのトラブル隠し・偽報告鵜呑みの実態等、枚挙にいとまがありません。
さらに、今回のJR福知山線の脱線事故においても利益優先で無謀なダイア設定と安全対策軽視の企業体質に原因があることが指摘されている。自治労連は企業の社会的責任(CSR)の確立を求めているが、国家的な偽装倒産であった国鉄分割民営化以降の一連の事態を見ても、「推進会議」の述べる「『内閣の責任』が果たされている」との認識が欺瞞であることは明らかです。

(3)行政裁量について
 「推進会議」は、住民本位の行政遂行を基本とした行政裁量の意義の検討は回避し、「行政裁量」を頭から否定し、「マニュアル化・ガイドライン化」こそが求められているとしています。どんな仕事でもマニュアルや基準は必要ですが、今現場で押しつけられているマニュアルはあくまでも経営のために存在し、サービス向上のために存在するものではありません。
多くの企業ではマニュアル自体が「企業秘密」であり、消費者が「情報公開」を求めても不十分なものとなり、主権者である国民がマニュアルの内容について議論さえも出来ません。
過度のマニュアル化は、公務員としての行政経験の蓄積と検証、継承による専門性や公共性を発揮すべき「公権力の行使」である事務・事業と基本的に相容れないものです。

(4)守秘義務について
 守秘義務について「推進会議」は、「必要な措置を講ずることで足りる」というが、実際には「必要な措置」が十分講ぜられていません。
とりわけ、インターネット事業者、金融機関、信販会社等の相次ぐ顧客情報等個人情報の流出事件は、営利のためなら国民の人権もプライバシーも踏みにじる民間事業者の「守秘義務」確保に関する措置の脆弱な実態が浮き彫りになっています。
また、情報漏洩に関しても、企業にとって不都合な情報やデータは捏造あるいは隠滅することが横行していることが、この間の大手ビルの回転ドアや大手自動車メーカーの事故、欠陥隠し、原発のトラブル隠し等に見られるとおりです。
市場化テストのモデル事業として、ハローワーク、厚生年金保険、政府管掌健康保険の未適用事業所に対する適用促進事業、刑務所管理等が挙げられていますが、いずれも極めて重大・重要な個人情報が集積する分野であり、公が行うことにより初めてプライバシーが守られるものです。上記のような企業の不祥事が多発し、しかも企業の責任が曖昧にされていることや、企業の存在目的から考えても、「守秘義務が守られる」等とする論調に同意することはできません。

(5)条約による事務・事業について
 条約による事務・事業について「推進会議」は、「最終判断権が行政に留保されていれば足りる」と述べているが、実際には、行政に「最終判断権」が真に留保されていない事例があります。検疫分野でも、相次ぐリストラによってその体制が脆弱化され、「規制改革」によって食品等の安全基準が緩和、切り下げられています。
しかも、公正な最終判断を下すべき行政が、BSEの例に見られるように、外国政府の圧力に屈して輸入検査等行政が歪められるような実態は、判断権さえも行使できていないことを示しています。

(6)効率性について
 「推進会議」は、そもそも当該事務・事業をなぜ従来「官業」(行政サービス)で行ってきたのかの検討を回避しています。言いかえると、国民・住民の生存権保障等基本的諸権利に対する責任と負担をどのように確保するのかという検討がなされていないことになります。
「当該事務・事業の市場性・効率性等を客観的に測ることができるようになる『市場化テスト』を早期に導入することが重要」と述べているが、これは「官業」(行政サービス)を強引に市場の競争原理、コスト至上主義に晒すことで、民間企業の採算ベースに沿って「事務・事業」を縮小させ、再構築(リストラ)しようとするものです。
また、「官が行うべきと主張する事務・事業については、そもそもそのような事務・事業を継続させるべきかという視点からの吟味も必要」という言い回しで、国民にとってはかけがえのないサービスでも、市場性・効率性のないサービスは切り捨てていくということを宣言しているのです。
介護保険制度が始まり、いったんは地域展開していた大手の介護保険事業者が「利益が見込めない」としていっせいに撤退し、多くの自治体が介護保険事業の運営に大きな支障と困難に直面させられた事実を忘れるわけにはいきません。

5.東京自治労連の見解と態度
小泉自公政府は、あらゆる分野で市場万能主義の規制改革を進めています。昨年4月に発足した規制改革・民間開放推進会議は、これをさらに推進するために、政府・財界を挙げて取り組むための組織です。その中で、公共サービス分野に対して徹底した民間開放を進めるための提言を行っていますが、実際は「提言」どころか、政府の至上命題として取り上げられるところに、この組織の極めて異常な役割があります。
東京自治労連は、小泉構造改革に基づく自治体業務の民営化・民間開放に反対します。また、質の高い公共サービスを確立し、公務公共サービス労働者の雇用を守るために、「第1次答申」とその中に盛り込まれている「市場化テスト」に反対します。
 市場化テストでは、国においては来年度モデル事業として、ハローワーク・社会保険関連事業が試行予定です。しかし、これらは国民に身近な公共サービスであり、モデル事業に指定することが無原則な民間開放に結びつく危険性が高いのです。
また、対象事業を民が落札した場合の公務員の処遇について、「配置転換や民間事業者への移転の仕組みを本格的導入までに整備する」としていますが、雇用は労働者にとって重大な問題であり、一方的な結論を押し付けることは断じて許されません。
東京自治労連は、住民福祉の向上を、住民とともに実現するために、広汎な世論と運動の構築に向けて取り組みをすすめます。

別  表

規制改革・民間開放推進を巡る最近の主な経過
2003年 3月  閣議決定:「規制改革推進3か年計画」
12月  「総合規制改革会議」「規制改革の推進に関する第3次答申」
2004年 3月  閣議決定:「規制改革・民間開放推進3か年計画」
4月  「総合規制改革会議」を改組して「規制改革・民間開放推進会議」(以下「進会議」という)の発足:「官製市場」(=公的関与の強い分野)の民間開放に重点を絞って調査審議を進める。
5月  規制改革・民間開放に関する基本方針」
8月  「推進会議」「中間とりまとめ」:民間開放推進の手法として「市場化テスト」導入を強く打ち出す。
12月  「推進会議」「第1次答申」:「市場化テスト」導入の段取りや「個別官業の民間開放」の対象事務事業、「主要官製市場等における改革」の進め方をとりまとめる。
12月  閣議決定:「第1次答申」で示された『具体的施策』を最大限に尊重し、所要の施策に速やかに取り組むとともに、『規制改革・民間開放推進3か年計画』を改定する」。
2005年 3月   「推進会議」「第1次答申(追加答申)」:「官製市場」以外の「個別分野」の規制改革に関する調査審議の成果を取りまとめ、「具体的施策」として提起する。
3月  閣議決定:「第1次答申」及び「第1次答申(追加答申)」の指摘事項を「重点計画事項」、「措置事項」として列記する等「規制改革・民間開放推進3か年計画」の改定を行う。