「個人所得税に関する論点整理」の概要と見解
……庶民大増税打ち出した政府税調……


2005年6月29日
東京自治体労働組合総連合      
自治体政策委員会事務局長 森田稔

はじめに
「骨太方針2005」が出された6月21日、政府税制調査会(以下「政府税調」)が「個人所得課税に関する論点整理」(以下「論点整理」)を公表しました。その内容は、所得税・住民税の給与所得控除、配偶者控除、扶養控除の見直し等、サラリーマン増税を柱としたものです。22日各紙は、これらを基にして様々なシミュレーションを行い、いっせいに試算結果を計算しています。これらの報道により、大増税の実態が急速に国民に浸透することに伴い、各政党の対応・態度が国民・都民の最大関心事となり、今後の政局にも影響を与える勢いとなっています。
もちろん増税額が国民生活に及ぼす影響は甚大であり、その分析も重要ですが、同時に政府税調が提言するに至る現状分析及び論点について知ることも大切ですので、以下に「論点整理」の概要と問題点、見解について述べます。

1.「論点整理」の概要
(1)所得の種類と税負担について
  「論点整理」は「所得」を分類し、所得区分ごとの問題点を列挙しています。その一部を簡単に紹介すると、以下のとおりです。
@ 給与所得……非正規労働者の急速な増加等、雇用形態の多様化が進む中、給与所得者であるということだけで一律に論ずることは難しくなっている。所得の計算に当たり、特別の斟酌を行う必要性は乏しくなってきているので、給与所得控除の見直しが課題となる。
A 退職所得……雇用形態、産業構造の変化に伴い、退職金を支給せず在勤中の給与を引き上げたり、退職金に代えて退職年金を支給するという企業も増えている。また、退職所得控除は勤続年数20年を境に1年あたりの控除額が急増する、など合理的でないので、多様な就労選択に対し中立な制度となるよう見直すべき。
B その他の所得……事業所得、譲渡所得、不動産所得、一時所得、雑所得

(2)世帯構成と税負担のあり方について
人的控除について、「本人に係わる控除に比べ家族に係わる控除の方が大きくなっており、制度が相当複雑化している」と述べ、世帯構成と税負担について、以下のとおり当面の課題を挙げています。
@ 配偶者との関係……担税力という面で、夫婦に配慮が必要との考えは疑問がある。配偶者が就労のあり方を決めるに当たって、パートナーの税負担とは離れて決せられるべき。
A 子育て支援との関係……子どもの扶養を担税力の減殺要因ととらえて所得控除によって対処してきたが、少子化対策全体の中で政策的に対応する必要がある。また、扶養控除対象者に年齢制限を設けるべき。特定扶養控除について、相当の負担軽減が進む中、制度の存立趣旨は失われつつある。

(3)課税ベースと税率構造のあり方について
@実効税率の水準……実効税率とは実質的な所得(給与所得者の場合は給与収入)と税額を比較するもので、税額は収入から諸控除を控除して算出される課税所得に対し税率を乗じて得られる。我が国の場合、実効税率は諸外国と比べて極めて低いので課税ベースや税率構造の見直しにより、その水準を引き上げていくことが今後の課題となる。
A課税ベース……実効税率の水準を引き上げるために、課税ベース縮小の原因となる非課税所得、各種控除のあり方を見直すことが重要である。
B税率構造……「三位一体改革」に伴い、国から地方に3兆円規模の税源を委譲する際、所得税に現在の最低税率(10%)より低い区分を儲ける必要がある。また、最高税率は、個人住民税と併せて50%という現在の水準は妥当と考えられる。

(5)個人住民税について
@所得割……所得割の諸控除は、個人住民税の性格も踏まえて簡素化・集約化等の見直しを図り、課税ベースの拡大に努めるべきである。特に所得控除は、所得税とは独立して整理合理化を図ることが望ましい。
A均等割……一人あたり国民所得の伸びを勘案すると低い水準にとどまっているので、税率の引き上げを図る必要がある。
B 税務執行面での改善……徴収率向上を目指し、公的年金等からの特別徴収等、執行面・制度面からの検討を行う必要がある。

(6)納税環境の整備
@納税者番号制度……従来以上に積極的な議論を行う必要がある。
A記録及び記帳に基づく申告制度……事業所得300万円以下の者にも記帳義務を課すべきである。
B立証責任……税務訴訟における立証責任について、納税者自ら説明責任を果たすことが 相応しいと思われる項目について、個別に制度的枠組みを整えていくことが望ましい。
C その他……源泉徴収・年末調整、公示制度、罰則

2.「論点整理」についての見解
「論点整理」は、「課税対象は所得・消費・資産に大別されるが、この中で『所得』がわが国税制の中で重要な役割を果たしてきた。しかし、個人所得税については相当の負担軽減が行われてきた。こうした中、近年において配偶者特別控除の廃止等、『あるべき税制』に向けた税制改正が行われている。しかし、少子高齢化等、経済社会の急速な構造変化の中で起きているさまざまな歪み、不公平を是正し、公平・中立・簡素な税制を構築するためにさまざまな要因による収入をできる限り課税ベースに取り込んでいくことが望ましい。」とし、個人所得税の抜本的見直しが必要と述べています。
 また、「平成18年度」において定率減税を廃止し、所得税から個人住民税への本格的な税源委譲が必要とも述べています。
とんでもない暴論です。そもそも給与所得者は労働力を売ることのみによってしか収入を得ることが出来ません。病気や怪我などにより収入を得られなくこともあるという立場の弱さを考慮し、給与所得控除は税負担を軽減させるために設けられたもので基本的人権として考えるべきです。
もともと政府税調は給与所得控除の役割として、@必要経費の算出が困難なサラリーマンの概算控除 A他の所得に比べて担税力が低いことを考慮する必要 B源泉徴収制度の適用により、他の所得に比べ正確に把握されるという格差の是正 C申告納税の場合に比べ、早期納税による金利調整の必要、を一貫して主張してきました。「論点整理」は、これまでの自らの主張を投げ捨て、「概算控除が実際の経費より過大である」という理由だけで給与所得者に増税を強いようとするものでしかありません。
    給与所得控除見直しの根拠として、非正規労働者の野増加と雇用形態の多様化を挙げていますが、ひどい議論です。財界の要請(日経連「新時代の日本的経営論」1995年)に基づき、労働者の雇用と賃金を根底から破壊しておきながら、悪事を正当化し、現状是認の上に立って、さらなる改悪を行おうとするものです。
  退職所得控除についても同様です。企業における退職金切り下げ攻撃を追認するとともに、終身雇用制度の解体攻撃の仕上げとして、長期勤続に伴うささやかな特典さえも奪おうとするものです。もちろん短期在職者の控除率を上げるということはありえませんから、低位平準化攻撃であることは言うまでもありません。
  各紙で、以上の大増税提言を基に試算が行われています。たとえば定率減税が廃止され、給与所得控除が半減、扶養控除、特定扶養控除(上乗せ分)、配偶者控除廃止の場合、サラリーマン、専業主婦、子ども2人(一人は16〜22歳)の4人世帯の場合、年収700万円世帯の負担率は9.8%、増税額は68.9万円にも上ります(赤旗2005年6月29日付)。それ以上の年収階層になると負担率は下がり、中堅サラリーマンを直撃する大増税攻撃であることが鮮明です。
  この試算を見ても「論点整理」は、所得の高い階層に応分の負担を求めるという累進性を緩和し、所得の低い層に重い負担を負わせる逆進性を持ったものであること明らかです。所得格差がどんどん開く中、あるべき税制の方向は、負担能力に応じて税を負担するという応能原則です。憲法13条[個人の尊重]や25条[生存権]にも照らして、国民的な議論を巻き起こすことが必要です。
同時に、今回の報告はあくまでも政府税調の「論点整理」でしかありません。様々な思惑はあるにしても、政府与党内ですら疑問や異論が噴出しています。国民的な大運動で大増税計画を打ち破りましょう。