自由民主党新憲法草案の地方自治体に
関わる条項についての見解と態度
2005年11月30日
東京自治労連中央執行委員会
はじめに
自民党は10月28日、現行の憲法を大幅に改悪する内容の「新憲法草案」(以下「草案」を決定しました。最大の特徴は憲法の平和原則を投げ捨てることです。前文を全面的に書き換え「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのないようにする」という言葉を完全に削除しています。9条2項も完全に削除し、自衛隊を自衛軍と改め、明確に軍隊と位置づけたのが大きな特徴です。
これらの点については、マスコミ各紙も注目し、かなり報道されています。しかし、同時に私たち自治体に働くものにとって看過できないのが、91条からの自治体に関わる部分の条項です。現行憲法よりたくさん書かれているので、自治体についての記述が「充実している」と誤解される恐れがあります。
「草案」の自治体に関わる記述に関する批判がまだほとんどありませんが、私たち自治体労働者組合が声を上げなければいけないと考え、以下に「草案」の自治体条項部分に限って、概要と問題点、そして東京自治労連の見解と態度を明らかにします。

1.草案の概要と問題点
「地方自治の本旨」という言葉があります。この言葉は戦前、自治体が国の出先機関として住民を管理し、戦争に駆り立てたことへの反省から生まれました。その意味は、(1)地方自治体は中央政府の出先機関にはなり得ないこと。このことによって、中央権力や中央からの押し付けを抑えることが出来ます。(2)地方自治体の財政は、その団体の自主的意思に基づいて決定すること。したがって、住民に身近なレベルで政策を決めることで福祉の充実を実現することが出来ます。(3)地方公務員の地位は国家公務員の地位と異なっていること、と言われます(岩波新書「憲法読本」)。これらによって、住民が直接政策決定に関わり、「市民」として権利と自由を「住民福祉の向上」という不断の努力で保持するとしています。また、団体自治と住民自治という言葉もあります。その実現のために自治体にとっては、自主立法、自主行政、自主財政という考えが大変重要となります。
しかし、「草案」第91条の2第1項では自治体の本旨として、「身近な行政を……実施することを旨として」とあり、自治体というものを「身近な行政」にきわめて狭く捉えています。つまり、中央政府の出先機関として、身近な行政を実施するだけの役割しか与えないと言っているのに等しいのです。
さらに第91条の2第1項は「住民の参画を基本とし」としています。「参画」はあいまいな表現であり、主権者としての住民の地位を否定することになりかねません。
また、2項では、「地方自治体の役務をひとしく受ける権利」と「負担を公平に分任する義務を負う」と住民と自治体を経済的対立関係と位置づけて、住民に対して応益負担を求めています。このことは、自治体が自ら負うべき住民福祉の向上という責任を後景に追いやるとともに1項の「参画」とあわせて考えると住民への広範な義務として、無償奉仕を要求するものとなっています。
第91条の3では、「地方自治体は、基礎地方自治体と広域地方自治体とする」と記しています。この表現は、「基礎」と「広域」との役割分担論を提起しています。「基礎」は「基礎」だけ行い、「広域」へは口を挟むな、「広域」のためにグランドデザインに沿って従えという、上意下達の思想が現れています。また、「広域地方自治体」という言葉も、道州制を視野に入れたものと言っても過言ではありません。
第92条では、「国と自治体の相互の協力」を述べています。ここでは、「国および地方自治体は、地方自治の本旨に基づき、適切な役割分担を踏まえて、相互に協力しなければならない。」と述べています。一読すると、当たり前のことのように思いがちですが、そうではありません。国が言う「適切な役割分担」とは、2000年の地方分権一括法の改正を経て、大幅に変わった国と地方の役割分担をさらに加速させようとしているのです。その容は、一つに自治体が国に対して住民生活向上のため福祉や教育、医療などでものを言うことを制限しようとすることであり、二つめに外交や防衛は国の仕事である、だから自治体は口を出すなということなのです。たとえば今、米軍基地強化の動きが強まっている問題で、沖縄での新基地建設問題で沖縄県知事や名護市長が反対を唱える中で、日本政府が基地建設のために海域の埋め立てを承認する権限を知事から国に移そうとしていますが、こうした国に対して自治体が対等にものを言う権利を「草案」は根本から封じようとしています。
第94条の2では、「財務および財政措置」について以下の通り述べられています。「……地方税のほか、当該地方自治体が自主的に使途を定めることが出来る財産をもってその財源に充てることを基本とする。」そうです。ここには、国の地方交付税のことも国庫補助金のことについても一切触れられてはいないのです。国は「三位一体改革」の中で、地方交付税の縮小、国庫補助金の廃止・縮小を進めてきましたが、「草案」では、地方分権の名の下に、財政的にも地方自治体を国の支配下に置こうとしているといわざるを得ません。地方間の財政力の差を調整することも国民生活の最低基準を保障するという国の義務も放棄しています。
また、現行第95条には、「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定できない。」として、住民投票について記述されていますが、この部分は完全に削除されています。住民の意思を反映しながら自治体運営を行う、特定の地域に負担を課さないなど住民自治の観点を否定するものです。
地方自治体は住民が自らの意思で政策や改善をつくりあげていく地域共同体です。自民党の「草案」にはこの視点がまったくありません。住民とは別な組織=「おかみ」として自治体を描いています。

2.東京自治労連の見解と態度
 以上述べてきたように、自民党新憲法草案における自治体条項は、現憲法に定められた地方自治体の本旨とは全く相容れないものです。本年3月29日に「新地方行革指針」が発表されましたが、その中に盛り込まれている将来の地方自治体像は、「これからの自治体は地域の経営戦略本部となれ」というものでした。もちろんその前提として、「住民の福祉の向上に貢献する」という本来の自治体の役割を投げ捨てて、公務公共の仕事は徹底的に民営化・民間委託などの民間開放・自治体の市場化を行うことにより、「小さな自治体」を実現しておくことがあり、自治体の役割を住民管理中心にシフトしていくことです。
 つまり、今回の自民党新憲法草案は、憲法前文・第9条をはじめとして、日本を「戦争できる国」にしていくことが最重要命題であるとともに、平和な日本を今までとは全く異なるものしていくことを狙っているのです。地方自治体の記述でも、これまでとは180度異なる自治体像を描こうとしています。
なぜ「憲法改正案」ではなくて「新憲法案」なのか、そこには国民投票との関連があると考えられます。新憲法案一括で信任か不信任かを問うような国民投票にしようというのが自民党の考えです。まるで郵政民営化に「賛成か反対か」を国民に迫り、賛成しないものは「非国民」のレッテルを貼ろうとしたようにです。
 東京自治労連は、こうした自民党をはじめとした改憲勢力の策動に対して、一貫して反対する取り組みを進めてきました。2007年に向けた憲法改悪のスケジュールにあわせて、2005年は憲法を学び、1000人の講師を養成することを目標としました。また、東京の自治体に働く労働者に対して、憲法改悪に反対する幅広い結集を呼びかけ、9月26日は「憲法を生かす自治体労働者東京連絡会」が結成され、ここを機軸にして取り組みを展開することを確認しました。2006年に向けても引き続き学習活動を強化するとともに、憲法を守り発展させるための宣伝活動など、あらゆる取り組みを展開することを、あらためて表明するものです。