公立保育園の民営化に対する運動の到達点と今後の運動方向について
2007年5月23日
東京自治労連中央執行委員会
 この間、都内各自治体において厳しい公立保育園民営化攻撃が続いていますが、各単組の精力的な闘いや主体的な運動の積み重ねによって、情勢の変化を作り出しています。保育園民営化反対闘争は運動面において新しい姿を示すとともに、要求面においても画期的な前進を勝ち取ってきています。
 一方で、政府・財界による公的保育破壊攻撃も新たな段階を迎えています。
 情勢の特徴を把握すると共に、この間の運動と要求の到達点と教訓を明らかにし、今後の保育園民営化反対闘争の課題と対応方向を示すものです。

1 情勢の特徴について
(1) 主体的な運動が作り出した情勢の変化
@相次ぐ保護者の側に立った司法判断
 政府・財界の構造改革路線に基づく、保育の市場化は、2000年に、営利法人による認可保育園運営を可能とする規制緩和が強行され、これを受けて、全国的に公立保育園の民営化が開始され、2003年の地方自治法改正による指定管理者制度導入を受けて、その動きは加速化しました。
 しかし、昨年4月20日の大阪高等裁判所判決、5月22日の横浜地方裁判所判決と相次いで保護者の側に立った司法判断が下されました。
 民営化そのものを否定する判決ではないものの、保護者に、特定の保育所で保育を受ける法的利益を認定し、保護者の同意無き一方的な民営化実施を強く否定しています。
また、保育において「保育士と児童及び保護者の信頼関係が重要」であること、それをわずかな引継ぎで構築することは困難であり、保育士の経験年数にも言及して子どもたちの被害を認定したことなど、画期的な内容となっています。
 こうした司法判断の流れは、本年2月27日の神戸地裁による、原告の全面勝利となる神戸市立枝吉保育所廃止の仮差し止めに関する判決に引き継がれています。
 
Aマスコミ報道の変化
 このような、司法判断に加えて、昨年以降のマスコミ報道の論調は保育園民営化について否定的であり、他の施設や事業の民営化問題とは明らかに異なる報道姿勢がとられています。
 特に、週刊東洋経済・プレジデント・アエラ・読売ウィークーをはじめとしたビジネス雑誌、商業新聞においても読売や産経新聞までを含めてこうした記事が特集されています。
 
B公的保育を守る運動の到達点
 マスコミ報道の変化・保護者の側に立った司法判断は、大田区や練馬区における保育士の中途大量退職をはじめ保育園民営化の具体的問題点が明らかとなるなど、公共業務の営利目的化と公的責任放棄が有する構造的な問題点が表面化していることと共に、私たちの公的保育を守る運動の到達点として確認することが重要です。
 マスコミの報道姿勢の変化は、明らかに読者のニーズに基づくものです。
 公立保育園保護者が裁判闘争を含めて主体的に運動を進めている背景には、所得階層を超えた住民の公設公営保育に対する高いニーズがあります。
 現在は、教育や介護分野等と異なって、保育園については、高い利用料の負担で質の高いサービスを受けられる民営保育園は存在せず、所得階層の違いを超えて、子どもに高い水準の保育を受けさせるためには、公設公営保育園を守る必要があります。
 これは、市場化の要件である保育所における直接入所方式・保育料の自由設定方式の導入を「公的保育を守る」闘いの結果として、許してこなかったことによるものです。
 政府・財界は、保育における公的責任制度を解体し、保育の市場化をめざして、保育への企業参入容認・公設民営方式促進・保育水準切り下げなどの全面的な攻撃を進めてきていますが、公的保育を守る運動の中で、保育は現時点においても児童福祉法24条に基づいて、行政が責任を負う制度として存続し、行政の責任で保育に欠ける子どもに対し入所を決定し、公費により保育提供を行っており、保育料も応能負担としています。
 わたしたちのこれまでの闘いの到達点が、現時点で闘いを有利に進める基盤となっていることを確認することが重要です。
 
 (2)要求と運動の質的発展
 世論の変化や司法判断を受けて、全国的には公立保育園民営化に慎重となる動きが強まっています。
 特別区においても、今年度、公立保育園の廃止・民営化や指定管理者制度導入は、23区中9区にとどまると共に、その内容も各区当局の狙い通りのものとはなっていません。
 特に、2005年度からの5ヵ年で4.6%以上の定数純減目標を設定する「集中改革プラン」策定強要に見られる政府の自治体に対する厳しい総人件費削減攻撃を踏まえるならば、公立保育園民営化は決して拍車のかかった状況にはありません。
 また、後述のように、わたしたちの闘いも質的に高まっており、道理も無いままに民営化に突き進む自治体当局と粘り強く闘って、大きな到達点も勝ち取っています。
 
 (3)政府・財界による公的保育破壊攻撃が新たな局面へ
@保育市場化の突破口と位置付ける認定こども園
 一方、政府・財界は更なる保育の市場化へ向けて、「施設と利用者の直接契約」「保育料の原則自由化」を強く求め、昨年6月9日に「就学前の子どもに対する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」を成立させ、新たに「認定こども園」を創設しました。
 認定こども園は、「事業者と利用者の直接契約であり、入所決定は事業者が行う」「保育料は事業者の自由設定」であることが最大の特徴であり、この2本の柱は、保育の市場化突入の要件であって、認定こども園をその突破口と位置付けているものです。
 さらに、公的保育制度破壊を先導する東京都は、昨年12月15日に国基準をさらに下回る方向での認定基準確立と東京における保育の市場化推進をもくろむ「認定こども園の認定基準に関する条例」を確立しており、公的保育制度を守る上で、重大な局面を迎えています。
 
A強まる総人件費削減攻撃
 また、昨年7月の骨太方針2006を受けた「地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針の策定について」(2006/8/31)による総人件費削減攻撃の強まり、現在国会で審議されている財政健全化法案の動向もあり、民営化攻撃を強める要因となっています。
 特に、2009年度からの5カ年計画となる次世代育成支援行動計画後期分の策定を控える中で、民営化を盛り込ませない対応の強化が必要です。

【財政健全化法とは】
 今国会に提出されている「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法案)は、@財政健全性判断基準として4つの指標を導入(このうちの一つに将来負担比率があり、職員全員が退職した場合の退職手当も含まれる)、A早期是正制度導入(総務大臣・知事は必要な勧告を行うことがでることになり、地方自治への介入である)、B早期是正段階での個別外部監査契約の義務付け(小規模自治体でも約1千万円といわれる外部監査契約を強要される)、C財政再生団体の基準に新たに連結実質赤字比率と実質公債費比率を入れる(会計制度の違いを無視)、D議会と監査委員の役割の拡大、が特徴となっています。
 同法が2008年度決算から適用されることから、その前に各自治体において歳出削減、とりわけ定数削減を加速する恐れがあり十分な注意が必要です。
 
2 運動の到達点について〜民営化反対闘争の質的発展を築く
 この間の各単組における公立保育園民営化反対闘争の特徴は、当局による民営化提案に対して、「保育の質の確保」を前面に押し出して、保護者との共同をつくりました。
 そして、保育の質を確保する上で、その執行体制(公設公営の必要性、職員の配置や労働条件・雇用形態等)が重要であることを、住民との間で共通の要求として合意形成し、保護者の自主的な運動を含めて新たな共同の運動を作り出していることにあります。
 
(1)住民本位の保育実践の積み重ねが「保育の質の確保」での闘いの基盤
 保育園民営化問題は、保育園の役割である「子どもの発達保障」と「親の就労保障」、とりわけ「子どもの発達保障」である「保育の質」を維持向上させるために、運営主体・執行体制はどうあるべきかをめぐる闘いです。
 当局は、「民営化しても保育サービスは低下させません」と強調します。この場合のサービスとは保育時間などの物理的・制度的なものにすぎませんが、これに対して、「保育の質の確保」を前面に掲げて闘うためには、保護者が「保育の質」に対する理解を有することが必要です。
 保護者は、実際に保育園に子どもが入園し、経験豊かな保育者集団に保育を受けて、子どもも保護者自身も高められ・成長することを経験することで、初めて「保育の質」を理解するものであり、質の高い保育を体験することなしに、「保育の質」を理解することは困難です。
 わたしたちは、住民要求の実現と職員の労働条件改善を統一して追及する運動を重ねて保育水準を向上させるとともに、保育園に働く組合員一人ひとりの豊かな保育実践の積み重ねによって、高い質の保育を築き上げてきました。
 このことが保育園民営化反対闘争の基盤となっていることを再確認するものです。
 
(2)保護者の主体的な闘いの前進と、それを作り出したわたしたちの取り組み
 3月4日、保護者の全国組織である「ほうんネット」が発足しましたが、この間、豊島区における3園での父母会新設など保育園父母会の新たな設立、目黒・墨田・豊島区における「ねっとわーく」設立にみられる新たな共同行動組織の発足、自治体当局との粘り強い協議など保護者の主体的な闘いが次々に生まれています。
 保護者と私たちの共同も、従前のような私たちが設定した集会や学習会に保護者が参加する共同行動から、保護者の自主的・主体的な取り組みと、私たちの取り組みとの共同というかたちに大きく発展してきています。
 こうした保護者の主体的な運動や共同の発展は、各単組・支部が地道に粘り強く、民営化の本質と具体的問題点を柱として、保護者に対する系統的な宣伝や懇談、保護者向け学習会開催などを積み重ねてきた結果であり、保護者の主体的な闘いを築くための取り組みの成果です。
 
(3)住民世論総体の結集へむけた条件の構築
 公立保育園民営化反対闘争が保育の質をめぐる闘いであるため、質の高い保育を受けている保護者との間では認識の共有化が可能ですが、住民世論総体を結集するうえでは困難な側面もあります。
 しかし、わたしたちの精力的な運動が自治体当局を追い込む中で、自治体当局が保護者との協議を一方的に打ち切るなど強硬姿勢にたたざるを得ず、住民自治に反する暴挙に出ざるを得ない状況を作り出しています。
 こうした当局の住民無視の姿勢等を広く住民に訴えることで、世論の多数を結集し、当局を社会的世論で包囲できる条件を作り出しています。

3 要求面での前進
(1)民営化の流れを断ち切った文京区の到達点
 文京区では、公募区民を含む検討委員会報告を受けて区当局が本年3月に策定した「保育ビジョン」において、「現在17園ある公設園については、『公設公営保育園』としてより一層大事に維持していく。」と明記され、行革計画から削除する画期的な成果を収めています。
 当該単組・支部の粘り強い闘いが保護者の主体的な運動をつくり・支えてきた結果としての到達点であり、別途、この間の文京区における闘いの経過と到達点を改めて整理し、教訓を共有化していくこととします。

(2)民営化を余儀なくされても高い到達点を確保
 民営化やその方向を余儀なくされた単組においても、闘いの結果として、市場化の阻止や公契約運動としての前進を実現し、民営化進行を鈍らすとともに、その根拠を喪失させるなど、極めて高い水準の到達点を確保しています。

@市場化の阻止
 各単組の「保育の営利目的化」を許さない闘いによって、世田谷区当局が「営利企業は導入しない」ことを決定したように、営利法人排除をせざるを得ない状況に追い込む成果を各地で実現しています。
 公立保育園民営化の狙いが、公的責任の放棄と市場化にある中で、その策動を打ち破る重要な到達点と言えます。
 特に、営利法人排除を実現することで、保育園の民営化への参入法人が限定され、応札法人が受託条件を満たさないなどの状況が生じ、委託年次先送りなどの状況を作り出すとともに、保育園調理業務の民間委託化についても中断した区が現れる状況にいたっています。
 
A公契約運動に寄与する保育の執行体制面での前進
 保育の質を確保するために職員体制が重要であることについて、保護者との認識の共有化を図り、一致して闘いを進めてくる中で、民営化にあたって、板橋区・江東区・目黒区のように従前の自治体職員配置基準の遵守や保育士の雇用形態・経験など執行体制についての制約をつけることを勝ち取っています。
 公契約条例制定を目指す運動は、公的機関が発注する事業について、社会的に適正・公正な水準の賃金・労働条件を確保することを契約に明記するように求めるものです。
 保育の分野において、委託仕様書などに受託労働者の雇用形態や職員配置数など労働条件に関わる事項の明記を実現していることは、公契約運動としての前進であり、保育分野でその突破口を切り開いたものとして位置付けるものです。
 
B実質的な民営化根拠の消失
 多くの場合、自治体当局は、財政縮減を根拠として民営化を提案・推進しているものです。前述のような民営化へむけた条件面での高い到達点を実現するとともに、司法判断を踏まえて長期の引継ぎ期間が設定される中で、結果として、民営化による財政縮減効果が大きく縮小するばかりか、少なくない自治体において超過支出となっています。(江東区豊洲保育園では7000万円削減予定が2300万円にとどまるとともに、本庁部門増員で支出超過に。目黒区の新たな計画では民営化実施で1億3000万円の支出増に。)
 事実上、民営化推進の口実としての財政問題を消失させる具体的事実を作り出しており、今後の運動の前進に極めて有利な条件を築いています。
 
C組織化との結合
 公共一般江東支部は、民営化対象園における非常勤・臨時職員を組織化し、雇用問題などの要求課題前進を勝ち取っています。また、墨田区においては公設民営園に福祉保育労分会を結成するなど要求闘争と組織化を結合した闘いにおいても、大きな成果をあげています。
 
4 今後の課題について
(1)運動は大きく前進し、質的に高い到達点も勝ち取っていますが、表面的には民営化移行保育園が増加する中で、一部に運動と要求の到達点に確信を持てない状況も見られます。この間の闘いの到達点、情勢の特徴と闘いの方向、展望を全組合員で改めて共有化することが必要です。

(2)認定こども園問題は、公的保育の行方に極めて重大な影響を持つため、運動の重点課題として位置付けて、具体的な対応を行う必要があります。

(3)法的検証:民営化時の引継ぎ問題、給食調理などの委託化の拡大、人材派遣の導入などの状況の中で、偽装請負や違法派遣の点での法的検討が緊急に必要です。
 また、各自治体において民営化園へ公立保育園長退職者を配置する動きも多く見られますが、行政から運営法人に対する事実上の便宜供与の疑いもあり、この問題についても法的検討の必要性があります。
 派遣労働者や受託事業従事労働者の労働条件について労働基準法上の問題点検証、退職の増など不安定な執行体制が保育に及ぼす影響など具体的な問題点を指摘し、その理由を明らかにする必要があります。さらに、業務引継ぎ問題では、その過酷な労働実態も見受けられ、問題点の整理と要求の確立が緊急に求められています。
 
(4)民営化に対する検証:現実に公立保育園民営化が拡大している中で、保育の質に責任を持ち、保護者との共同をさらに前進させていく上で、民営化後の保育実態の検証が必要です。また、公契約の視点から、営利法人排除、職員体制、職員の雇用条件をはじめとした「仕様書」水準などについて到達点を整理することが求められています。

(5)民営化反対闘争と民間委託労働者を含めた組織化を結合して、組織拡大強化を目指す対応方針の確立も求められます。
 
5 対応の方向
(1) 「公立保育園の民営化に対する運動の到達点と今後の運動方向について」を確立し、多数の保育組合員との意思統一を進めます。

(2) 保育部会と協議し、認定こども園問題での取り組み方針を確立し、対応を強化します。また、同時に公的保育破壊を目的として導入されている認証保育所問題では、23区において、都補助金が一般財源化されており、この問題での対応方向の検討に入ります。

(3) 業務引継ぎ、派遣・請負問題など、法制度面での検証の具体化を進めます。

(4) この間の取り組みの到達点として、指定管理者協定書や業務委託仕様書などの水準を整理し、到達点と課題を明らかにしていきます。

(5) 民営化手法で多数派となっている「指定管理者制度」の構造的問題点の整理と自治体関連法人受託の場合の継続指定問題での運動化を進めます。

(6) 民営化反対闘争との結合した組織化方針の策定に入ります。
以上