「次世代育成支援対策推進法」を柱とする国の少子化対策の概要と見解

2003年 8月 6日

                          東京自治労連中央執行委員会

                            

1.はじめに

 今国会では、1.次世代育成対策推進法 

2.児童福祉法の一部改定(以上612日成立)

3.少子化社会対策基本法(724日成立)

と子どもや子育てに関する法律が成立(児福法の一部改定を含)しました。これは、少子化と子どもの問題が大きな社会問題となっていることの現れです。

都および市区町村は、今後「次世代育成支援対策推進法」を受け、包括的な「行動計画」の策定を進めます。しかし、推進法では、自治体の事業をNPOや企業・民間に「委託できる」としたり、「市町村保育計画」では、公設民営方式や公立保育所の民営化の押し付けが危惧されています。自治体は、「行動計画」を機に財政危機を理由に、実施責任を放棄し、実効性のある少子化対策を打ち出さない恐れがあります。 今、子どもたちの育ちを保障するべきとの世論が高まっています。私たち自治体労働者には、自治体の実施責任に基づく「行動計画」を策定させることが求められています。

また、各自治体は、雇用主=「特定事業主」として「特定事業主行動計画」を策定します。労働組合として、実効ある行動計画を策定させることが重要です。

 

2.少子化社会対策基本法の問題点

 少子化対策にどう取り組むべきかその基本理念を表しているのが「少子化社会対策基本法」です。

この基本法は、個人の領域である女性の選択権や自己決定権(結婚や妊娠、子どもを持つか否かなど)尊重の視点が欠如しているとして、衆議院の審議の過程で、「結婚や出産は個人の決定に基づく」との修正がされました。

しかし、「国民の責務」として「国民は家庭や子育てに夢を持つ」ことができる社会の実現に資するよう努めることを掲げています。これは、「夢」という主観的な言葉を法律に入れ、政府の「理想とする家庭像」を国民に押しつけることになる危険を依然としてはらんでいます。

 

3.次世代育成支援対策推進法と児童福祉法の一部改定の概要

(1)次世代育成支援対策推進法は、

 1)05年の4月から10年間(2015年度まで)の時限立法。

 2)「急速な少子化の進行等」に対し、「基本理念」「関係者の責務」国の「行動計画策定指針」ならびに地方公共団体や事業主(従業員300人超は義務、未満は努力義務)に対し「行動計画の策定」を定め、次世代育成支援策を「迅速かつ重点的に推進」することを目的にしています。

3)都道府県・区市町村の行動計画は、5年を1期として、@地域における子育て支援 A親子の健康の確保 B教育環境の整備 C子育て家庭に適した居住環境の確保 D仕事と家庭の両立などについて具体的な目標と目標達成のための措置を盛り込むこととしています。

 4)「事業主」は、従業員の「仕事と家庭の両立」に関し、国の指針に基づき計画を策定、届け出るとされています。

(2)児童福祉法の一部改定は、

1)次世代育成支援対策推進法に連動し、「すべての子育て家庭における児童の養育を支援する」ため「子育て支援事業の実施」と「市町村保育計画の作成」に関する規定の整備を目的としています。

「子育て支援事業の実施」として、@在宅での養育支援事業 A保育所などでの養育の支援事業 B相談に応じ情報提供および助言を行う事業を掲げています。また、子育て支援事業の「斡旋等の実施」として、利用者への情報提供、相談、助言、必要に応じて斡旋、調停を行い「子育て支援事業者」に必要な「要請」を自治体に義務づけました。しかし、この事業の実施主体は、自治体に限定せず、NPOなどに委託できるとしています。

2)「市町村保育計画の作成」では、保育の需要が増大している市町村では、@保育の実施の事業 A子育て支援事業 Bその他児童の保育に関する事業の供給体制の確保に関する計画を定めることとなります。厚生労働省は、公設民営や企業参入の促進を含め、指針を示すとしています。

 

4.今回の少子化対策の課題と問題点

(1)「子どもの権利条約」や児童福祉法の理念の立場で、国・自治体の実施責任を明確に進めることが必要です。

「子どもの権利条約」は、「子どもの最善の利益が第一次的に考慮される」とし、保護者の子育ての義務とともに権利を明確にし、国や自治体に子育て支援などの「適切な援助を与え、かつ、子どものケアのための機関、施設およびサービスの発展を確保する。」と「実施責任」を明確にし、さらに、働く親を持つ子どもが「保育サービスおよび保育施設から利益を得る権利を有することを確保するためにあらゆる適当な措置をとる。」と保育等の保障義務を定めています。

しかし、推進法では「保護者が子育てについての第一義的責任を有する」、国・自治体は「総合的かつ効果的に推進するよう努めなければならない」としています。国・自治体には、単に「環境の整備」のための施策を求めており、国や自治体の「実施責任」があいまいです。「子どもの権利条約」を国内で実践する立場で、国・自治体が「総合的かつ効果的に直接実施する。」ことを推進すべきです。

(2)働くルールの確立と子育ての社会的環境整備こそ、急務です。

 この間の小泉「構造改革」による「リストラの推進」や、労働諸法制(労働者派遣・裁量労働の拡大など)の改悪、保育・福祉の「規制緩和・市場化」などによる保育条件の悪化や不足など、父母の子育て条件や環境の悪化こそ、少子化問題を一層深刻にしています。今、国がするべきことは、「働くルールの確立」や「実効性のある育児・介護制度」をはじめとする子育てのしやすい条件や環境の整備を抜本的に進めることです。

(3)保育の「規制緩和・市場化」、公立保育所の民営化を推進するものです。

児童福祉法の一部改定では、@「供給体制の確保に関する計画」を義務付けていますが、「公設民営」方式や公立保育所の民営化の押し付けにつながることが危惧されます。

A子育て支援事業を保育所などで実施するにもかかわらず内容や体制等が不十分であるばかりが「最低基準」の遵守も明確になっていません。B「その他」の「供給体制の確保」として、保育ママや認証保育など認可外施設の事業も含められており、「直接契約」「企業経営」を容認し、認可外施設の拡大につながるものです。これらは、認可保育制度自体を歪める重大な問題です。

(4)「子育て支援」事業などに対する国・自治体の実施責任をあいまいにし、自治体を事業の「調整役」に後退させる枠組みづくりをするものです。

市町村は、「区域内においてこれらの事業が実施されるよう必要な措置の実施に努めなければならない」と実施責任をあいまいにしています。また、「子育て支援等の情報提供や斡旋および要請」を自治体に義務づけながら「委託できる」とし、費用支弁も不明確です。このことは、事業の主体は、企業やNPOなど民間事業者で、自治体を「調整役やコーディネート役、事後チェック役」にする道を開こうとするものです。

(5)保育制度や子育て支援など、最低基準の引き上げや現行事業の抜本的拡充と、財政保障こそ必要です。

 「待機児ゼロ」を掲げても待機児は減るどころか増大しています。既存の保育所への詰め込みや、市場化・公立保育所の民営化ではなく、認可保育所の増設を基本に、保育所の最低基準や保育運営費などの改善と、そのための財政的措置こそ必要です。

 

5.「子どもの権利」が息づき、保護者が「子育てを楽しめる」支援策こそ急務です。

今回、推進法をはじめとする少子化対策が進められることは、子どもたちの健やかな成長を望む世論の高まりを背景にした動きであり、歓迎されるべきものです。今回の推進法を中心とする少子化対策では限界があり、実効性を高めるための取り組みが必要です。

その第1は、雇用対策としての少子化の克服より、子どもの権利を尊重した実効ある施策を自治体の責任で実施することです。「子どもの権利条約」や児童福祉法の理念を基に、子どもたちの健やかな成長を十分保障する施策を求めましょう。

第2は、国の責任を明確にさせ、財政保障を明確にした「行動計画策定指針」を求めましょう。特に中小企業には、金銭補助を含めた制度の創設なしに実効ある「行動計画」は困難です。

第3は、自治体の実施責任を明らかにした「行動計画」の策定と実施を求めましょう。その際、財政保障は当然です。同時に現在保育園・児童館・保健所・子育て支援センターなど、子どもと子育てに係わっている行政機関を機能を明らかにし、ネットワークづくりを進めるなど、従来蓄積されてきた力を発揮していきましょう。

また、費用負担についての自治体の責任を明らかにしましょう。費用負担が明記されていないことは、第27次地方制度調査会「中間報告」では、「自治体の事業は自治体の判断と費用」としており、住民に費用負担を転嫁する危険性すらあります。

第4は、保護者をはじめとする住民参加を保障し、地域の子育て力の育成を計りましょう。「行動計画」には、住民の意見を聞くことを奨励しています。国の行動計画策定指針にも「市町村保育計画」にも保護者・保育関係者はもとより住民の参加を保障し、十分な協議や情報公開を義務づけましょう。「雇用主」の「行動計画」にも当該労組との労使協議を義務づけることが必要です。

 

6.おわりに

 東京自治労連は、各単組と関係部会・協議会とで「子育て支援プロジェクトチーム」を作り、引き続き検討を進めます。11月下旬には、シンポジウムを開催する予定です。  

さらに、自治労連とともに、「子どもの権利」を第一義とする「子育て支援」を求め、働くルールの確立や国・自治体の実施責任と企業の社会的責任による保育や子育て支援の抜本的拡充、保育の「営利企業化・市場化」と公立保育園の民営化を許さない運動を、父母をはじめとする住民とともに大きく広げ、子どもの笑顔輝くまちをつくるため奮闘するものです。

 

以 上